CODE的に飲酒運転問題を考えた


mixiコミュの『ロジカル・シンキング』からいらっしゃった方々へ>
こちらもごらん頂ければ幸いです。

http://d.hatena.ne.jp/ryozo18/20061003/1159822494




最近、飲酒運転の報道がやけに目に付くようになった。先月の福岡での事件が大きな契機になったんだろうが、特に運転していたのが公務員だったことが問題を大きくした感じだ。で、ネット上を見て回ってたら問題が色々と錯綜してて、なんかよくわからなくなった。ここでは自分なりにこの問題を整理してみる。


まず、大前提として「飲酒運転は正常な判断力を鈍らせ事故の確率を大幅に高める」ということは明言しておく。飲酒運転を擁護するつもりはまったくない。



そもそも飲酒運転は横行してるのか?


まずは、飲酒運転の実態はどうなっているんだろうと思って警察庁のデータを調べてみた。すると次のような事がわかる。(統計(警察庁)"安全・快適な交通の確保に関する統計等"

平成14年の道交法改正によって、飲酒運転が原因による死亡事故は結構減っている
平成17年の飲酒運転による死亡事故は、改正前の平成13年に比べて約6割の水準に落ちている(平成13年:1,191人⇒平成17年:701707人)。ただし、減少のペースは鈍っており、平成18年は微増傾向にある。
飲酒運転の取り締まり件数も減少傾向にある
平成13年は22万2,301件だった取締り件数が、平成17年には14万0,873件になり、こちらも約6割に減少。ちなみに速度オーバーなどの他の取締りを含めた総取締り件数は、平成15年から約15%増えている(6,306,488件⇒7,228,333件)ので、検問の回数が減ったとかっていう話ではないはず。
飲酒運転に限った話ではないけど、免停・免取の厳罰化は進んでいる
取締り件数が増えた割には実は免停の件数は減っているが(平成12年:約108万件⇒平成16年:約89万件)、免取の件数は激増している(平成12年:34,402件⇒平成16年:59,177件で1.7倍)。これは飲酒運転の違反点数が一気に引き上げられた影響かもしれない。(3 運転者教育と運転者施策 "運転免許の行政処分件数の推移(平成12〜16年)"


つまり、道交法を改正して飲酒運転に厳しくあたるという施策はそれなりに効果を生んでいることがわかる。



「地方ではしょうがない側面もある」という意見に対して


たしかに飲酒運転自体は悪いんだが、そうはいっても地方の車社会では致し方ない面もあるよね、だいたい国道沿いに駐車場完備の飲み屋がたくさんあるじゃないか、という話もある。




↓↓↓ここで参照しているデータはどうも間違っているっぽいので注意↓↓↓


では地域別の交通事故件数とそのうち飲酒運転が原因で生じた事故の比率を見てみることにする。ここでは地方と都心部を対比させるのが目的なので、見やすい数字があるところだけをピックアップしてみた。つかほんとは全ての都道府県別のデータが見たかったんだが、警察庁にはまとまってなかった。各県警のサイトを見て回るほど暇じゃないものでこんなもんで(それでも30都道府県くらいは見た。結構掲載されてないもんだね)。

都道府県 死亡事故件数 うち飲酒運転 比率
東京*1 170 20 11.8%
大阪 167 13 7.7%
兵庫 206 22 10.6%
秋田 75 7 9.3%
長野 152 1 0.1%
大分 86 5 5.8%
沖縄*2 45 9 20.0%

ソース一覧


交通事故情報 :警視庁
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/jiko/jiko1.htm#toukei
交通事故発生状況・交通死亡事故の特徴[大阪府警察]
http://www.police.pref.osaka.jp/03kotsu/kensu/tokucho.html
兵庫県警察−交通事故統計(平成17年)
http://www.police.pref.hyogo.jp/seikatu/j_toukei/datafiles/infome/info17.pdf
秋田県警察署 "平成17年中の交通事故の特徴"
http://www.police.pref.akita.jp/kenkei/toukei/09.html
長野県警 原因・類型別状況
http://www.pref.nagano.jp/police/koutsu/kikaku/jikotou05/jiko.04ruiki.htm
大分県警 平成17年中に発生した交通事故状況
http://www.pref.oita.jp/keisatu/kkikaku/h17/taisyou.pdf
沖縄県警〜 交通ルール 守って安全 ちゅら島2004 〜
http://www.police.pref.okinawa.jp/Traffic/koutujiko.jyo/untitled.htm


↑↑↑ここで参照しているデータはどうも間違っているっぽいので注意↑↑↑


これをみると別に都心だからとか、田舎だからとかってあんまり関係ないような。理屈としては「地方は車がないと何も出来ないから飲酒運転の機会が増えて、その結果事故に占める飲酒運転の割合は高い」となると思うんだがどうなんだろ。


ついでに人口10万人あたりの交通事故死者数の上位・下位をそれぞれ10位まで示してみる。ちなみに全国平均は5.4人(平成17年の数字)。

上位 (人/10万人) 下位 (人/10万人)
静岡 30.4 群馬 2.2
茨城 13.8 千葉 2.5
長野 12.9 神奈川 2.9
栃木 9.7 大阪 3.0
東京 9.7 石川 3.4
島根 9.2 福井 3.6
富山 8.9 長崎 3.8
滋賀 8.6 北海道 4.0
徳島 8.4 岐阜 4.1
岩手 8.2 京都 4.5

平成18年度警察白書 統計資料
統計4−4 都道府県別の交通事故発生状況(平成17年)
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h18/4shou/4-4.pdf


このデータを見てもなんか特徴があるようにも思えない(静岡で何が起きてるのかはすごく気になるが)。


たしかに田舎が車社会なのは認めるが(うちの実家も車がないとなにもできない。半径5km以内に飲み屋もないし)、データを見る限り田舎と都会で事故の原因に占める飲酒運転の割合がそんなに大きく変わるとは思えない。たしかに地方のほうが交通量が少ないとかいろんな要因があって、酒を飲んでも事故が起きにくいということはいえるんだろうが、だとすれば地方における飲酒運転自体はそんなにリスクの高い行為ともいえなくなる。ある意味、事故さえ起こさなきゃいいじゃんという気もしなくはない。



飲酒運転の厳罰化、特に免職とかの話に関して


この話は先の福岡の事故とその後ごろごろと出てきた公務員の飲酒運転の報道で過熱した話だ。例えば以下のような話。


飲酒運転:公務員の処分、昨年度は118人−今日の話題:MSN毎日インタラクティブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060913k0000m040101000c.html

飲酒運転免職、“減刑”の自治体も…読売調査 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060910i204.htm


で、この話に関して「やりすぎじゃね?」という意見と「いやいやこれぐらいやっても当然」という意見がある。特に公務員は飲酒運転に対して過保護なんじゃないかという思いがあることもこの問題を過熱させている原因だと思われる。


「やりすぎじゃね?」派の意見
法律相談◎飲酒運転防止の行きすぎ(2005.7.8・713号)
http://www.jichiro.gr.jp/question/horitsu_sodan/200505_no713.htm


「厳しく対処する必要が出てきているのでは?」派の意見
ビジネス法務の部屋: 飲酒運転と企業コンプライアンス
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2006/09/post_52dc.html


常識的に考えて事故を起こしちゃえばその時点でアウトだろという点は確定なので、問題は検問で飲酒運転が判明したときにどうするかだ。で、これは各自治体とか企業がそれぞれ考えりゃいいことなのではないかと思う。まあいきなり免職はやりすぎとも思う。一度目は停職、二度目に引っかかったら免職とかかな。これでやめないのであれば、これはもう制度というよりは本人の問題だろ。



CODE的な発想による飲酒運転規制


CODE的という話だから、当然次の4つのモジュールが出てくるよ。

「法」
罰金のさらなる引き上げ、違反点数の引き上げ、警察による検問強化、免職といった処分の厳罰化など
「市場」
駐車場つきの飲み屋の酒を値上げ、代子運転の料金引き下げなど
「規範」
飲酒運転に対する意識改革など
アーキテクチャ
自動車に呼気判定装置を入れるなど

では、まず「法」を厳しくすればどうなるか。ここを厳しくすれば、今までリスクの発生確率を低く見ていた人も、失ったときのコストが莫大になればある一定層の人は飲酒運転をやめるだろう。そして実際、平成14年の道交法改正で飲酒運転のコストはかなりあがったし、その結果飲酒運転の検挙数は減少している。さらにこのコストを上げることで飲酒運転は減るだろう。その意味では免職させるよというメッセージは非常に大きな意味をもつと思う。あとは違反点数をさらに引き上げて一発免取とかね。しかしそれでもまだ「俺は大丈夫だ」とか「車がないと」とかいうバカどもは出てくるだろう。


この人たちに、「市場」はあんまり効きそうにない。というか現状では「市場」が働いているとは思えない。「法」によるコストがさらに重たくなると代行運転のニーズは増えるだろうから、供給さえうまくいけばここは市場メカニズムが働くかもしれない。


「規範」では無理だろ。とはいえ、飲酒運転をやるということは、ここまで大きなリスクを背負っているんですよということを明示的に伝えるということは必要かも。その意味で「飲酒運転=即免職・停職」となれば飲酒運転を抑制する効果は期待できる。


で最後の「アーキテクチャ」。結局すべての飲酒運転をやめさせるには「アーキテクチャ」による規制をやればいいだけ。全ての車に呼気判定装置をつければ理論上飲酒運転はできなくなる。ただし、全ての車にこれをつけろというのは相当コストが高い方法だ。しかしようはこれまでのモジュールが効かない人にだけ、この「アーキテクチャ」による規制を行えばいいだけだ。


例えば飲酒運転で免停・免取になった人や事故を起こしちゃった人には自家用車に呼気判定装置をつけない限り運転させないという規制を作ればいいだけだ。さらに職業的に飲酒運転をやらせたくないと考えるのであれば「うちの会社の従業員の乗る車は自家用車・社用車問わず全て呼気判定装置をつける」といえば済む話だ。公務員は採用規定にその一文を入れればいい。補助金つけてもいいよ(裏金以外でね)。いくらコストやリスクを高めても、その発生確率をゼロと過小評価してしまうダメな人にはこれで対処すればいい。


結局、飲酒運転の問題は常習的に飲酒運転をやっちゃう一部の層、つまり飲酒運転のリスクを把握できてない人が問題なだけなのではないか。その他大勢はコストが上がればそのコストに応じて飲酒運転をやめている。そのコスト水準が適正かどうかはそれぞれの地域とか考え方によって異なってくるだろう。ほんとに田舎の一本道で通行人も対向車もいないようなところなら、別に酔っ払って運転したってたいしたことはないんじゃないか。それでドライバーが勝手に電柱に突っ込んでもそれは自己のリスクの範囲内ですませてもいいと思う(愚行権はあるんじゃね?という話なのかな)。


というわけで、リスクを適正に評価している人(既に飲酒運転はやらないよという人)に対しては現行の規制で十分だと思う。ま、もうちょっとコストを高めてもいいかもしれない。だってまだまだ年間14万件も飲酒運転で検挙されるバカがいて、年間700人もの人が飲酒運転が原因で死んでるわけだから。で、それでもまだまだ飲酒運転のリスクを過小評価するバカには呼気判定装置をつけさせればいい。前歴のある人も含めてもいいかもね。まああんまり警察がでしゃばるのはどうなのよという気もするが。


ま、そうすると地方の飲み屋の何割かはつぶれるだろうなあ。そのコストをどのように分担するかは各地方が決めればいいのかもしれない。

*1:H18/9/11時点

*2:H18/8/13時点