SCNが企業合併・買収推進?
昨日無事マザーズへの上場を果たし、さらに株価も公募価格を上回り、時価総額も1,500億円を目指そうかとの事、まったくもってご同慶の至りです(棒読み)。
⇒asahi.com: So−netのSCNが上場 企業合併・買収推進へ - ビジネス
http://www.asahi.com/business/update/1221/002.html?ref=rss
しかしこの朝日の記事は気になる。というかなんか勘違いしてねえか?とすら思える。
今後は独自に資金調達がしやすくなるため、企業合併・買収(M&A)を積極的に進める方針だ。同社が接続サービスやポータルサイトの業界再編の核になる可能性がある。
まず今回のSCNのマザーズ上場は決してSCNの事業戦略から出てきたものではないと僕は思っている。どう見てもソニーの損失補てんだろ。しかもSCNは業界的には『弱者』のほうに分類されると思うんだが、ここが核になったとしてどんな業界再編があるというんだろうか?
SCNはブロードバンド会員獲得競争では負けた
マルチメディア総研の調査では、2005年度末の時点でのブロードバンド会員数は、ADSLが1,465万、FTTHが535万であわせて2,000万回線になる(株式会社 MM総研)。一方、So-netのBB会員は何人かと見ると、73万人(SCNの財務資料より)で、シェアはわずか3.7%にすぎない。
これでどうやったら接続サービスの業界再編の核になれるんだろうか?
SCNの時価総額の大半は保有する有価証券の価値を反映しているに過ぎない
次にSCNの財務内容を見てみる。SCNの時価総額は株価が仮に60万円とすると約1,500億円。で、保有している有価証券の中で上場して時価がついているのはソネットM3とDeNAの二つ。
この二つの有価証券の時価総額と保有比率、その保有比率からの時価を表にまとめると以下のようになる。
時価総額(億円) | SCN保有比率(%) | 保有時価総額(億円) | |
---|---|---|---|
ソネットM3 | 1,500 | 60.8 | 945 |
DeNA | 1,400 | 20.0 | 280 |
合計 | 1,225 |
つまりSCNの時価総額1,500億円のうち、この保有有価証券で約8割の説明がついてしまう。残りの275億円がSCNとしての事業価値だ。さらに保有している現預金が40億円、預け金が215億円くらいあるので、これらの現金等価物をさっぴいたSCNの純粋な事業価値として残るのはわずか20億円。
つまり市場はSCNの接続事業やポータル事業なんてものの事業価値なんてほとんどないと判断しているってことだ。
実際に他の接続業者なんか買えるのか?
まあそれは置いておくとしても、朝日がいうような「接続サービスやポータルサイトの業界再編の核になる可能性」はどの程度あるんだろうか。
まずは現在の買収相場を見てみることとする。が、最近日本ではこの手の買収は行われていないので、ベンチマークがない。なのでここでは参考数値としてBusiness2.0の特集記事からの数字をひっぱってきてみる。
⇒Business 2.0 :: Magazine Article :: What Works :: The Return of Monetized Eyeballs
http://www.business2.com/b2/web/articles/0,17863,1135200-2,00.html
このページの下のほうに最近のValuationの一覧表がある。これを見てみると、最近のユーザ一人あたりのValuationはおおよそ$20-40程度だとわかる。まあ間を取って$30/Userということにしておこう。
さて、日本の接続業者の中で売りに出そうな案件はと探してみるといねええええええええ。ここでは会員数を公表してるBIGLOBEを大型案件として考えてみると、BIGLOBEの会員数は1,320万人(BIGLOBE資料より)。てことは会員一人あたりの価値を仮に$30(=3,000円)とおけば事業価値は396億円てことで、約400億円になる。まあ実際はなんやかんやプレミアムがつくと思うので、実際の買収にはこの1.5倍から2倍程度になるんじゃないかと適当に仮定すると、買収金額は約600〜800億円のレンジになる。いやあ昔はもっと高かったんだけどねえ。
この資金調達は出来るんだろうか?まあ持ってるソネットM3とかDeNAの株を放出すれば資金調達できそうだ。
$30/Userじゃあんまりだという話も聞こえてきそうなので、じゃあ$100/Userだとしたら、プレミアム込みで買収金額は2,000〜2,600億円のレンジだから、手持ちの株を全部うっぱらってさらにDebtかませてレバレッジ効かせれば買えなくはないレベルだな。仮にプレミアムなしとしたら1,300億円程度か。まあ射程内。
でも買ってどうする?
で、SCN主導の業界再編ってなによ?
この先、接続業界の関心事はFTTHがいかに採算ラインに乗るかという点だろう。普及速度も同じくらい気になるが、結局ファイバー引いてしまえばトリプルプレー(ISP、電話、動画コンテンツの一括提供サービス)できちゃうから、ここで囲い込みだこのヤローというわけで、いくらまでなら会員獲得コストをかけても採算に乗るかという点が悩ましいところだ。
で、ここで鼻息荒いというか命かけてるのがNTT様。2010年には全世帯の半分にあたる3,000万世帯をFTTH化するというとんでもない計画をぶち上げたり、スカパーと仲良くしてみたりということで、トリプルプレーにまっしぐらなわけで(さらに言えばドコモへの支配も強めてるから携帯との統合もありうる)、これにどうやって対抗するかという軸はまだはっきり見えていない*1。
この対抗軸の核としてSCNが登場?なんかありそうにねええええ。NiftyとかBIGLOBEのほうが核になりそうな気がするんですがどうなんでしょうかそのへん。
一方、ポータル業界の関心事はページビューよりも滞留時間が重要になってきている。接続サービスよりも映像配信、広告なんかがキーとなる、と。でSo-netってこのへんの取り組みはあまり進んでないと思うんですがその流れは無視ですかそうですか。
逆にソニーグループの持ってるコンテンツとのシナジー(あるとはあまり思えないけど)とかってのもこの上場で逆に遠ざかってしまっているように見えるのも気のせいですかそうですか。
ガバナンスはまだそんなにかわってねえよ
最後に朝日のこの一節。
SCNは、これまでソニーの子会社連動株式(トラッキングストック)の対象企業として東証に上場していた。ただ、そのことで重要な経営判断にソニーの承認を得る必要があり、経営の自由度が少なかった。
(略)
今回の上場でソニーは112億円の利益を得て、SCNへの出資比率は約6割に下がる。
つか今回上場してもソニーの持ち株比率は6割程度あるので、重要な経営判断止めようと思えば止められるんですが。トラッキングストックしてるときと本質的にはそんなに変わってないと思うんですが。
なんにせよこの朝日の記事には賛成できないということでFA。
*1:これについてはまた別途エントリするつもりだけど