団塊Jr.世代の昔話


「2000年代の『全ちゃん闘』を知らない?まあそりゃそうだろうね。そのときはまだ生まれてなかったんでしょ?僕?いやそのときは確かに2ちゃんねらだったけど、ノンコテちゃねらーだったからあんまり濃い話はしらないけどね」


「あのときいくつだったかって?30歳をまたいだあたりだよ。1972年生まれだからね。いわゆる団塊Jr.の世代ってやつ。あ、こういう言い方よりは『失われた十年世代』って言ったほうが分かりやすいかな」


「バブル景気ってのがあってね、それがはじけた、あ、バブルっていう株価とか地価が暴騰した時代があったんだよ。過剰流動性っていってわかる?それが一気に縮小して連鎖的な資産デフレが起きたんだよ。バブルって状態が崩壊したことを当時は『はじけた』って言ってたんだ」


「で、その後金融行政の失敗で景気が10年以上にわたって停滞したんだよ。なんか銀行の不良債権とかが問題になってね。オイルショックって知ってる?そう、昭和の話。あのときは原油価格が一気に値上がりしたんだけど、なぜか全然関係ないトイレットペーパーを買い占めたりっていうフィルムとか見たことない?GooTubeとかで探すと出てくると思うけど。省エネとか推進したらしいね。今から考えれば原発作ればいいだけだったって話なんだけどさ」


「あ、でね、なんか景気が悪くなってるのに増税とかした政権もあったりしてさ。当時日銀は独立性が低くてね。今みたいにインフレターゲッティングとかしてなかったし。あ、何の話だっけ」


「あ、そうそう『失われた十年』っていうのはさ、そのバブル崩壊後の景気低迷をさすわけ。10年も続くなんておかしいよ。そりゃ今から考えればさ。でもあの時はそうだったの」


「就職なんてなくてさ、大変だったんだよ。今みたいに『なんでもいいから働いてくれ』なんて風潮一切無かったし。そもそも年金のポータビリティなんて整備されてなかった時代だからさ、転職すると損だなんて誰も真剣に考えてなかったわけ」


「そういや『ニート』なんて言葉が流行ってね。なぜか政府からは目の敵にされてたな。実際なんか害があったとはいまでも思わないんだけど。てかそいつらも今はちゃんと働いてるし。あ、派遣とかだったりするけど」


「なんか『ニート』が『全ちゃん闘』で暴れまわったとか言われててね、当時。『全ちゃん闘』って正式名称知ってる?『全板2ちゃんねる闘争OFF』っていってさあ、や、することなんて吉野屋で殺伐とするだけだったりするんだけどさ」


「公安とかが神経質でね。店で『領収書』もらうだけでマークされたりしたらしいんだよ」


「で、2ちゃんねるっていっても全然一枚岩とかじゃなくてさ、いろんな派閥、あ、当時の言葉で言うと『板』っていうらしいんだけど。って知らないよね。まあなんか色んな派閥というかグループがあったんだよ」


「そのうち過激なグループが出てきてさ、vipperとかニュー速とかまあ色々いたらしいんだけど。いや、大半の『ニート』はタダのROMニートさ。実際にカキコ、あ、活動ね、してたのなんてごく一部だよ」


「ま、たしかに活動してたのはエリートっていうのかな、そういう人が多かったらしいよ。喪男とか毒男とかも入るのかな。まあ実際に逮捕者が出たなんてのはほんとにごく一部だよ」


「まあ確かに実力行使に及ぶ過激派もいたよ。『田代砲改』とかつかってね。え、『田代砲』知らない?うーん、まあただのスクリプトだよ。あとは『winny』とかもそうなのかな。でも大半はIPそのままさらして書き込むだけの人達ばっかりだったよ」


政治団体だったか?あー、どうだろう。一応右翼だとか言われてたけどねえ。初期の頃は『ゴーマニズム宣言』とか読んでる層だったのかなあ。『戦争論』とかもかな。途中から批判派が現れてね。てゆうかみんな実はちゃんと読んでなかったと思うよ。『嫌韓流』とかがいちおう思想的なバイブルだったのかなあ。でも20年代に中国が分裂して朝鮮半島が統一されてからは誰も読んでないと思うけど」


「当時はさ、『特ア』っていってね、あ、『特定アジア』のことね。そうそう『米帝』とかみたいな感じの言葉。まあなんか『特ア』の暴挙を許すな!って感じの活動が発端だったのかもしれないけど、実際やってたことってブログ炎上させたり個人情報ばら撒いたり、ageとかsageとかやってるだけだったと思うけど」


「ハイジャック?あ、実際にやったやつもいたけどね。あれはあんまり関係なかったんじゃないかなあ。普通は個人ブログを炎上させるくらいが関の山だったよ。スパムコメント投げたりしてさ」


「有名な活動家?一応『ひろゆき』くらいは知ってるの?へえ、そう。いや、あんまりいないというか僕もよく知らないんだよね。『電車男』っていう活動家がいて、一躍精神的指導者になりかけた人はいたけど。キモヲタってことで超エリートだったそうなんだけどね。なんか非童貞になったとかで『アボーン』されちゃったって話は聞いたけど。『あぼーん』なんて言葉知らないよね。2ちゃんの中だけの言葉だよ。」


「結局みんなそんなに過激な活動なんてしてなかったよ。『メイド喫茶』にたまったり、『漫喫』とか『ファミレス』にたまるくらいが普通の活動じゃなかったかな。まあ結構な数が『ひきこもり』っていう強固なバリケード作ってたりしたけどね。年に数回あった『コミケ』とかが大規模なイベント。アレは結構凄かったらしいよ。整然と整列して『ポスター』をリュックに差してさ。なんか凄いしっかりした指揮命令系統持ってたらしいけど。『コスプレ』って戦闘服っていうのかな、みたいなのを着てる奴とかもいたらしいし。僕は行ったことないけど」


全共闘の時代はなんか替え歌とかが流行ったらしいんだけどね。僕らの世代だと『ガイドライン』をみんなで書きあうって感じだったかな。一部では『メソッド』とか言ってたけどね。似たようなものだったと思うよ」


「そうそう、はやったといえば全共闘では『カムイ伝』なんかが読まれてたらしいけど、僕らの時はどうだったかなあ。『ガンダム』『エヴァ』『ハルヒ』あたりなのかな。いや、このへんはすごく細分化してて僕もよく知らない」


「まあそのうち『全ちゃん闘』もだんだん様子が変わってきてさ。よりゲリラ的というか個人的というかそんな感じに後期はなったんだよ。最初のうちこそ2ちゃんねるが活動の主な舞台だったんだけど、『クネクネ』を掲げた『はてな村』とかってのが出来たりしてね」


「『はてな村』っていうのはどういえばいいのかな、昔のヒッピーって知ってる?自営共同体つくってフリーセックスとかドラッグとかやってたりした人達。ああ、いや『はてな村』はネット上のことだから実際にフリーセックスなんてないんだけど。非モテの牙城だったし。あくまで例え話ね。」


「自営って意味では『はてなアイデア』なんかは途中から『GreaseMonkey』とか『Plagger』とかで自作したりさ。プログラム能力の水準は高い集団だったみたいだよ。フリーセックスってわけじゃないけど『自動idトラバ』で、誰彼かまわずDisったりクネクネしたりとかね。ドラッグという意味ではドラッグなんかよりよっぽど中毒性とか依存性が高い『はてブ』なんてやってたりした集団だからねえ」


「『はてな村』のなかでもちょっと宗教がかった集団もいたなあ。『シナモン教』だったっけな。ニューエイジ系って知ってる?まあ遠からず近からずというか。へんな偶像掲げてね。『シナモン日記』っていう逐次更新型の預言書を読んでてさあ。ずいぶん変わった集団だったみたい」


「あ、あと『モヒカン族』っていうのは聞いたことある?諸説あるんだけど、どうやらjkondoが『はてな村』を作った地域にもともといた先住民らしいんだけどね。『ハンドアックス』投げたりしてずいぶんと凶暴だったらしいよ。jkondoはどうやって彼ら先住民と融和したのか詳しい話はしらないけど、どうやら彼らの文化上のタブーを尊重するとかっていう誓約をしたとかしなかったとか。『自動idトラバ』とかはその痕跡らしいけどね。自治区をどうやら持ってるらしいんだけど、境界が曖昧でね。知らずにその自治区に入ったりすると予告なしに『ハンドアックス』が飛んでくるとかって噂も聞いたけど。あと彼らは首を狩られても死なないって噂もあったなあ」


「ま、そもそも『はてな村創始者jkondoって人もずいぶん変わった人だったらしいし。非童貞かつモテなのに『はてな村』を引っ張っていったんだからすごいよね」


「ああ、話を戻すと、まあ『特ア』の問題が収束するというか、そもそも実際問題としてみんなそこまで関心があったわけじゃなかったから、時間がたつとみんな結局招待状もらって『Mixi』にいっちゃったんだよね。全共闘の人たちが大学卒業して就職したのと同じと思ってもらえればいいよ」


「当然まあ移行期というか分裂期には相当激しいいざこざがあったらしいけどね。『招待状板』なんていうゲリラ潜入活動やってた人とかもいたらしいし。mixiが上場したら一気に弾圧されたけどね。『垢狩り』って言ってね、第二次世界大戦後にアメリカがやった「レッドパージ」みたいなやつ。『本垢』の人が消されたりね。結構騒ぎになったよ」


「僕の知ってる話ってこんなところかな。まあ僕もそんなにどっぷり浸かってたわけじゃないから個人的な昔話みたいになっちゃうなあ。なんとなく雰囲気だけでも伝わってればいいんだけど」


「で、まあこっからは反省の弁というかなんというか、当時は『Final弁当』とかっていってたんだけどね。いや反省って言うのもおこがましいのかもしれないけど、結局Googleに全て持ってかれたなあってこと」


mixiでごそごそやってるうちにいつのまにか昔からの日本の強みだった『テキストサイト』の根を僕らの世代で絶やしちゃったっていうか。うん、昔はコミュに必ず一人くらい匠がいてさ。頭の一文節見ただけでどこのソースかが分かっちゃう人とか、手打ちでHTMLタグつけてた人とかがいたんだけど、そのうちみんなGoogleに頼るようになって。当時はまさかネットの世界で後継者不足が問題になるなんて想像すらしてなかったんだよね」


「こうやって考えると、僕ら団塊Jr.世代というか『失われた十年』世代って、結局はパソ通終結後の混乱期を必死で乗り切ってきた『モデム派』の遺産を食い尽くしただけだったのかもしれないね。ちょうど僕らの親にあたる『団塊の世代』が戦前/戦中派が作り上げた高度成長期の果実をくいつくしちゃったようにね」