株式市場の「永久機関」探し


スーパー・カブロボ大会サイト - 株式自動売買ロボットコンテスト - kaburobo.jp
⇒ http://www.kaburobo.jp/


これ、以前(テクニカル株取引の運用実績、というか焼死体)取り上げたことがあるんだが、これってトンデモな話であり、不当表示に引っかかってもおかしくない話なんじゃないかと思う。



この「スーパー・カブロボ大会」での運用結果はひどい


この「スーパー・カブロボ大会」とは、自動の株取引アルゴリズムを一定期間競わせて、その上位に実際のファンド運用をさせてみるという話だ。コンテスト期間は2006年8月1日から2006年12月1日まで。参加したアルゴリズムは2,236体。サイトには各アルゴリズムのランキングページがある(といっても上位1,000位のみ)ので、これを参考までに見てみよう。


比較対照として、当該期間の日経平均TOPIXベンチマークとする。そして5,000万円をまんまこれらのインデックスファンドに突っ込んでいた場合の金額を「期待値」とする。

銘柄 開始時 終了時 上昇率 期待値
日経平均 15,757円 16,313円 3.53% 5,176万円
TOPIX 1580.95 1606.27 1.60% 5,080万円


このパフォーマンスを下回る場合、そのアルゴリズムは無駄なことをやってるに過ぎない。さて、ランキング上位でどれだけのアルゴリズムがこの最低限のハードルをクリアできているだろうか?


日経平均と比較した場合、このハードルを越えられているのはわずか191位まで。TOPIXでは281位までである*1。残りの9割近くのアルゴリズムはマーケット全体のパフォーマンスを下回っている。


これははっきりいっておかしい。仮にランダムに売り買いした場合、その期待値(アルゴリズムの運用成績平均)は日経平均なりTOPIXとほぼ同水準にならないとおかしいはずだ。以前にこれとは別のエントリ(市場予測なんてうまくいかないに10000ペリカ)でも指摘したことだが、市場がランダムに動くと仮定した場合、マーケット全体のパフォーマンスを長期的に越えつづけるのは難しい。でも逆にいえばマーケット全体のパフォーマンス水準を維持することはもの凄く簡単なはずでもある。だって日経225買えばいいだけだから。


このランキングサイトには上位1000位までのデータしか公開してないので、下限がどの程度ひどいのかを知る由もないが、分かる範囲の下限(1000位)の運用実績は約4,175万円。一方トップを取ったアルゴリズムでは約5,955万円。両者の平均は5,065万円でありこの時点で日経平均TOPIXも下回っている。


さらに1000位以下の運用実績を考えると、アルゴリズム全体の平均で見た場合、市場全体よりもかなり下のパフォーマンスしか示せなかったということになるだろう。

上位にきたアルゴリズムが今後も好調でありつづけるという保証はない


そして、もう一点どうなのよと思うのは、このコンテストで上位にきたアルゴリズムが今後も好調なパフォーマンスを続けるという保証が一切ないということである。このコンテスト結果から言えることは、「このアルゴリズムはコンテスト実施期間にもっとも適したアルゴリズムでしたね」ということだけだ


このコンテストではバックテストなども行っているが、これとて後付けでなんとでも言える世界だ。僕ならバックテストを行うという条件がわかっていれば、日本の怪しい新興市場株をバブル期だけ忍び込ませるアルゴリズムをつくるだろう。


まあこのアルゴリズムが実運用にこないだ入ったらしいので、また結果を注目していきたいとは思う。が、運用から4日後の2月23日現在で、トップ10のアルゴリズムの運用成績平均は既に日経平均TOPIXも下回っている


仮に株価が調整局面に入ったりしたらどうなるのかとか、逆に激上がりした場合にどうなるのかとかといった点は興味深いが、僕はこのアルゴリズムの運用結果は結局のところ日経平均とほぼ同程度のパフォーマンスしか出せないのではないかと思う。というか日経平均を下回らなければ御の字だとさえ思う。

で、これって「永久機関」と同じような話なんじゃないの?


特許の世界で「永久機関」が認められないのと同様に、マーケットの世界では「長期的にマーケット全体のパフォーマンスを上回る特定のアルゴリズムは存在しない」と言い切ったほうがいいんじゃないかと思う。


短期的に有効なアルゴリズム(もしくは投資戦略)があることは疑問の余地なく認める。例えばグロース株投資とかは短期的には有効な投資戦略だと思う。ただ、グロース株投資にしたって、そもそもグロース株である銘柄を見つけ出せる保証はないし、そのギャップも長期で見れば調整されるからこそのグロース株なわけだし。結局、「グロース株に継続的に投資することが重要です」というフレーズは、「グロース株を見つけ出すという短期投資戦略を継続的に実行しましょう」と言ってるに過ぎないわけで。


というわけで、長期にわたって確実にマーケット全体を上回るアルゴリズムは存在しないことをそろそろ業界全体でみとめるべきじゃね?


あと蛇足だが、2003年4月のバブル後最安値の時期にTOPIXのファンドを買っておいた場合、現在では既に2倍以上になってるわけで、年率でいえば30%弱の運用実績をたたき出していたりする。一方、バブル崩壊時の最高値で突っ込んでいた場合は、まだまだ回復不可能なわけで、株式投資は難しいですね、ということで。寝よ。


(訂正:上で使っている「グロース株」は当初「バリュー株」と書いてたんですが、以前はグロース株と書いてたので一応統一しました)

*1:日経平均のほうが大型株が多いので、最近の大企業の好調な業績をTOPIXよりはストレートに反映したってことなんだろうね