ブラインフレに関する考察(2)
追記:ブラインフレに関する考察(1) - I 慣性という名の惰性 I
前回はCPI(カップ・パッド・インデックス)の上方バイアスについて検討した。本エントリでは、このCPIの変化についての考察を深めたい。
CPIの時系列変化
ここでは先の『日本女性のブラジャーの平均サイズは? | エキサイトニュース』のデータに基づき、CPIの変化率(年率換算)を求めてみることとする。
まず、各カップサイズにおける「(トップ)−(アンダー)」の数値を加重平均して、各時点の平均トップ−アンダー差を求める。この平均トップ−アンダー差の変化を年率に換算したものが以下の表である。
時点 | 変化率(年率) |
---|---|
1980-90 | 1.32% |
1990-92 | 2.34% |
1992-96 | ▲0.31% |
1996-2004 | 1.25% |
驚くべきことに、1992年から1996年にかけてCPIはデフレに陥っていたのである。な、なんだtt(AA略
インフレ率と失業率の負の相関
ここで「フィリップス曲線」という経済学の概念を紹介したい。フィリップス曲線とは、縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりの曲線となるという経験的な法則である。(参考:wikipedia:フィリップス曲線)
そして、このフィリップス曲線から次のことが言える。
- インフレ率と失業の間にはトレードオフの関係がある
- インフレ率が高い状況では失業率が低下し、逆に失業率が高いときはインフレ率が低下する。
つまりフィリップス曲線は、「失業率を低下させようとすればインフレーションが発生」し、「インフレーションを抑制しようとすれば失業率が高くなる」という両者の間の負の相関を示しているのである。
ブラ・インフレ率の高騰は「失恋率」の低下をもたらしていた
ここでは失業率のかわりに「失恋率」という指標を導入する。この指標は、国立社会保障・人口問題研究所が実施している「第13回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所」より求められる。
この調査では、18-34歳以下の未婚の男女の異性との交際の状況についてのデータが掲載されている。
このデータの女性に関する「交際している異性はいない」を「失恋率」として設定し、ブラ・インフレ率との関係を時系列でプロットしたものが下のチャートである。
このチャートを見て以下のような関係が見て取れる。
- 1987年から1992年にかけて失恋率は低下したが(39.5%→38.9%)、その期間にブラ・インフレ率は上昇している(1.32%→2.34%)
- その後、1992年から1996年にかけてブラ・インフレ率が低下した際(2.34%→▲0.31%))には、失恋率は急激に上昇している(38.9%→41.9%)
- 2002年にかけてはブラ・インフレ率、失恋率ともに顕著な変化はない
- しかし、直近の調査である2005年時点で失恋率は再び急上昇している(40.3%→44.7%)
これらの結果から次のことが言える。
ブラ・インフレ率と失恋率には負の相関が認められる
特に1980年代終盤から1990年代初頭にかけてブラ・インフレ率が急騰した際には、失恋率も有意に低下している。また、1992年から1996年にかけておきたブラ・デフレ期には失恋率の有意な上昇が認められる。
このデータのみでブラ・インフレ率と失恋率の間の因果関係の存在を断言することは差し控えるが、なんらかの負の相関が存在している可能性は強く示唆される。
この分析から得られるインプリケーションとして「おっぱいの底上げにだまされたを好意的に捉えた男性が一定数存在した」ということ、さらに「あまりにひどい底上げに気づいて幻滅した男が一定数存在した」ということが言える。
つまり、ブラ・インフレ率を高めることによって人為的に失恋率を無理に押し下げようとすることは、市場に大きな混乱を招きかねないということを意味するのである。
また人為的にブラ・インフレ率を高止まりさせると、男性の多くが『おっぱいの「真の値」の上昇に関係なく、ブラ・インフレ率は高水準で推移する*1』という(非合理的な)適応的予測を形成しかねない。つまり、「ブラのカップサイズなんてぜんぜん信用できねえよ」となってしまうのである。
適切なブラ・インフレ率はどの程度か?そのときの失恋率の水準は?
ここまで見てきたようにブラ・インフレ率の乱高下は失恋率の大幅な変動をもたらすことがわかる。失恋率を無理に押し下げようとすると、ブラ・インフレ率は急騰し市場を混乱させる副作用を持っているのである。
では、安定したブラ・インフレ率と失恋率の水準とはどの程度だろうか?
ここで再びフィリップス曲線に登場してもらおう。フィリップス曲線の与えたインプリケーションは、インフレ率と失業率の負の相関のみではない。右下がりのフィリップス曲線は、安定的なインフレ率を維持できる失業率の水準の目安も与えてくれたのである。この完全雇用状態*2における失業率を「インフレ非加速的失業率(NAIRU=Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)」と呼ぶ。
この概念を導入すると、先ほどの「安定したブラ・インフレ率と失恋率の水準」の推計が可能となる。
再掲したグラフをえいやっと眺めると、だいたい「40%」位の水準の失恋率のときにはブラ・インフレ率は安定しているようである。失恋率をこの水準以下に無理に押し下げることはブラ・インフレ率の高騰を招くため、あまり望ましくないということが言える。また、その際の適切なブラ・インフレ率は年率1%程度であると推計される。
蛇足であるが、このようにNAIRUを維持するような水準にインフレ率を誘導する政策をインフレ・ターゲッティング政策と呼び、主要国の中央銀行の多くが採用している政策目標である(嘘)*3。
次回は、2005年に生じた「失恋率の急激なジャンプ」について「可変NAIRU」の観点から考察する。