これは単に医療従事者に問題解決能力がないってことなんじゃね?


追記あり
最後のほうで「医師免許もってなくても病院の経営はできるんじゃね?」云々の記述は間違いだということが判明しました(医療法第7、8、10条あたり)。ご教示くださったid:starfruitsさん、ありがとうございます。

⇒参考:診療所 - Wikipedia




シナリオ通りの「医療崩壊」 -医療介護CBニュース-


なんか後半すごい展開になるんだが、読んでて「それってごく当たり前の話じゃん」と思ってしまった「文系学部」出身者です(挨拶)。

提示されている医療崩壊のシナリオ

  1. まずは病院の診療点数を低く抑えて、開業医に厚く分配することで病院を赤字化
  2. 赤字になった病院を民間企業が買い取って再編
  3. 民間企業によって効率化(流通の効率化とか保険の参入による混合診療推進とか)
  4. この再編が進んだ段階で、病院への診療点数を大幅に増加させる
  5. 再編後、医者を病院に配置する必要があるので、医者の人事権を大学の医局から奪うために「研修医制度」を変えた
  6. 一方で開業医への診療点数は大幅削減して、医療リソースを病院にシフトさせる。開業医\(^o^)/オワタ
  7. リスクの大きい患者は切り捨てられる(精神疾患の患者、脳卒中の患者、高齢者、重度の障害を持つ患者、血液疾患の患者などらしい)
  8. しかし病院の勤務医の処遇もたいしてよくはならない
  9. あと、設備投資負担の少ない介護業界に軽度の患者は移行させることになる


いや、これって「医療崩壊」とかじゃなくってごく普通の「業界効率化」シナリオなんじゃね?





1の「開業医に厚い医療費配分」について


まず、現在の医療崩壊の原因のひとつである「勤務医への過剰な負担」を生んでる理由が、日本医師会が望んでいる「開業医への厚い診療点数配分」でしょ?これがあるからわざわざリスクも負担もでかい勤務医やってるよりは、比較的楽な開業医に医療リソースが流れていっちゃってるわけで、ここを変えないとダメだってことは外野からはさんざんいわれているわけで。


つまり言い換えれば「日本医師会に当事者として問題解決能力がない」ってことのあらわれだろ、と。

2の「赤字病院の民間による再編」について


赤字になった病院を買い取って再編というのが問題になるとすれば、効率重視による「儲からない患者の切り捨て」ってことなんだろうけど、でもこれってたとえ経営主体がいまのままでももう既に起きちゃってる話なんじゃねえの?


実際、激務でリスクも高い小児科とか産科とかって経営主体がいまのままでも破綻してるよな。たしかに経営主体が「利益至上主義」な人たちになっちゃうと、この崩壊スピードが早まっちゃうとは思うけど、でも崩壊は経営主体の交代があろうとなかろうともう実際には起きてるわけで、それを食い止めるためにどうするかという話をするのであれば、リソース配分の見直しをするしかないよね。

3の「民間企業による効率化」について


で、民間企業が再編した病院は流通改革(大量購入による単価抑制とか物流の効率化とか)したり、民間保険会社によって混合診療の推進したりってことになるらしいんだが、これはいいことなんじゃないの?


実際、病院の物流の非効率性は問題になってるけど、自分たちで解決できてないよね?で、多分この解決できてないってことの原因は、大規模な設備投資をおこなう資本力がないってことだと思うんだ。つまり数十億円単位の投資をすれば効率化するのはわかってるんだけど、ない袖はふれねーよ、と。


こういうときこそ「資本家」の登場ですよw


資本家がお金を出して、労働装備率を上げれば効率化が達成されるわけですよ。零細農家を集約して、大規模なトラクターを一台買ったほうが生産性は劇的に改善するのとかわらない話じゃない。これに抵抗することは無理だし、合理的でもないよね(経済学的な意味で)。で、医療業界に「資本」を提供できるのは企業しかいないでしょ。


なんというかこれって国民全体の利益になることなんじゃないの?この資本投入による効率化を嫌がっているのは、開業医(低い生産性しかだせない分野、といってもいいかも)の利益に相反するからってことで医師会が反対してるだけのように見える。それこそ「既得権益」をもってる「抵抗勢力」ってな感じで。

4の「再編後の病院への診療点数の移動」について


で、ここまでは「現在必要なはずの病院への医療リソースの重点配分は日本医師会の政治力で阻害されている」って前提で話が進んでいたはずなんだが、再編が終わった時点で、この医師会の政治力はどうやらまったくなくなるらしい。そんなことを可能にする魔法は「財界の意を受けたマスコミによる世論誘導」なのだそうだ。


うーん・・・


マスコミの影響力がそれほどまでにあるかどうかはおいておいて、それって緊急医療に従事していらっしゃる堤先生にとってまさに望ましい環境なんじゃないの?現実に勤務医が疲弊してるのは開業医にリソースもってかれてるからだし、その誤ったリソース配分が是正されるならいい話なんじゃないんだろうか。


「財界の意を受けて」とかって話じゃなくて、医療業界の問題解決能力の欠如を民間企業が補うだけの話に過ぎないと思うんだが。

5の「研修医制度変更による医局からの人事権剥奪」について


これはまあそうなんだろうなというしかない。でもより大きな問題は、やっぱり開業医にリソースが流出しちゃってるということのほうなんじゃないかと思う。


この流出を止めるような政策でない限り、どうやってもうまくいかないような(増税とかで医療費予算の総額を引き上げるというやり方はここでは考えないとして、という話だが)。

6の「病院へのリソース移動、そして開業医オワタ」について


うん、まず、これって「医療崩壊」なの?と正直思った。


現在問題視されている「医療崩壊」って、決して「開業医不足」じゃないよね。どっちかといえば「救急といった高度な医療や、高リスクな小児科や産科などのリソース不足」のほうが「医療崩壊」の中身だよね。


この「医療崩壊」を改善するには、もうどうしたって病院にリソース(医者であり看護師であり予算であり)を持ってくるしかないんだから、その状況が達成された状態を「医療崩壊」と呼ぶのってすごい抵抗があるなあ。

7の「リスクの大きい患者の切り捨て」について


で、結局のところ、現在切捨てが始まりつつある「リスクの高い患者」というのは、病院側にリソースが潤沢にあれば改善するはなしなんじゃないかと思うんだが、どうなんだろう。


そもそもこういう高リスクの患者は開業医では取り扱えないわけで、リソースの集約された高度な医療機関(病院)じゃないと無理な話だとすると、現在はそれと逆行するリソース配分を結果的に起こしている制度なんだから、そこを変えれば逆に状況は改善するよ?


なにか問題でも?

8の「勤務医の待遇改善はわずか」について


で、じゃあ仮にこの「医療崩壊」が起きたとして、勤務医の待遇はあまりよくならないという予想をされてるわけだが、まあこれって「病院への医師の供給が増えれば、価格は下がる」ってことにすぎないよね。


いやまあ、市場が機能してれば、本来なら現在の勤務医リソースは需要にくらべて供給が過小すぎるから、もっと価格が高騰してないといけないんだが、それを阻んでるのは開業医の利害に敏感な日本医師会なんでしょ?


このシナリオ通りにいけば、開業医はつぶれていく。そうなると当然病院側にそのリソースは移動していくわけで、現在よりは人員の余裕も出るだろうし、生産性もあがると思う。これは「国民の厚生水準の上昇」の目線から見れば実にいいことなんではなかろうか。僕からすれば、これは「医療崩壊」というよりは「医療産業の効率化」としか見えないんだけど。

9の「介護分野への患者の移動」について


で、最後に介護にもっと患者も業者も流れるよっていってんだけど、これも当然の話だと思うんだよなあ。まあ介護にもっと予算がつかないとお話にならないんだけど、堤先生の中では有望市場のようだから、この動きが起きるんだろう。


これって病院としても望ましい姿だよね?昨今問題になってた「社会的入院」の負担が病院からは消えるってことを意味するような気がするんだが、間違ってるかな。



総じて思ったこと


この記事を読んでて、「結局は日本医師会とか厚労省とかに問題解決能力がないだけなんじゃね?」という思いがどうしても消えなかった。だって「崩壊」として上げられているシナリオが、そのまんま「非効率的な産業の効率化」にしかみえないんだもの。


たしかに「医療」というのは崇高な使命感とかがないとやってけない行為なのかもしれないけど、そこに非効率性があるのであれば、できる限り効率化を進めていかないといけないということとは矛盾しないよな、と思う。


その意味で、そういう効率化に長けた人・組織が業界内にいないのであれば、外部からつれてくるしかないよね。そこをいたずらに敵視したってしょうがないんじゃないだろうか。その意味でこういう発言はどうにもずれているとおもってしまったことであるなあ(詠嘆)。

結局、うがった見方かもしれませんが、これは法学部や経済学部など「文系学部」対「医学部」の闘いと言えるでしょう。文系の医系に対する「ねたみ」「ひがみ」「やっかみ」という精神的な要素も多分にあるのではないでしょうか。彼らは、天下り先の確保など、自らの権限を拡大するために、ありとあらゆる手を尽くしています。医療機関や国民のことなどは、これっぽっちも考慮していないことは明らかです。


いや、国民の福利厚生を無視したリソース配分の歪みをもたらしている日本医師会とかのほうが、よっぽど「医療機関や国民のことなどは、これっぽっちも考慮していない」とおもいますが大きなお世話ですかそうですか。



蛇足


なんでこんなことを思ったかというと、実は昨日実家の病院を継ぐためにSEをやめて医学部受験をしている知り合いにたまたま会ったから。彼はもう今年で30才。現在3浪。仮にこの4月から晴れて医学部に入ったとしても、一人前の医者となるのはおそらく40才過ぎになるだろう。


で、僕は3年前、SEを辞めて医学部を受験すると決めた彼にこういったらしい(彼はなんか強烈に覚えていたらしい)。


「別に医師免許もってなくても病院の経営はできるんじゃないの?」
【追記】これは間違いで、医療法によれば医師免許を持ってないと診療所等は経営できないそうです。訂正して謝罪します。すいませんでした。


なんとなく彼のご両親の「病院を経営するのは医者でないといけない」という感覚になんともいえない違和感を感じての正直な感想だった。


この記事を読んでみて、なんとなく医療関係者ってすくなからずこの「医者じゃないと医療の経営はできない」って感覚を持ってるんじゃないかと思ったので、こういう「文系学部」的エントリを書いてみたよ。