S&P500でPERを計算すると過大評価になるかも、という話


タイトルがすべてです(挨拶)。Mankiw先生経由。


Jeremy Siegel Says the Standard and Poor's 500 Index Miscalculates Its Earnings - WSJ.com
How Cheap Is the Market?

S&P500の値を算出するときは時価総額で加重平均してるのに、PERを算出する際に利益を加重平均しないのはなんでなんだぜ?


これもまた見出しですべてを言い尽くしてしまった。


言われてみるとたしかにそうかもなあ、とは思ったんだが、実際なにが問題なのかよーわからんなというのが最初の記事を読んだときの感想。二つ目の記事読んでなんとなく言いたいことがわかった気がする。


実際の例を示しているので、ここではそれに従って説明してみる。この例では単純化のため、挙げられている2社以外は株価も利益もまったく変化しないという前提ね。

時価総額のでかいエクソン・モービル時価総額の低いジョーンズ・アパレルは、S&P500のインデックス値を計算するときはちゃんと時価総額で加重平均されてる
エクソン・モービルがS&P500で占める割合は約5%、一方のジョーンズ・アパレルはわずか0.04%
仮に両方の会社の株価が10%上がったとしたら、エクソン・モービルの上昇分でS%P500指数は4.64ポイント上昇するけど、ジョーンズ・アパレルのほうは0.01ポイント以下の寄与しかないので無視される
これは指数算出のときのお話
今度はエクソン・モービルが100億ドルの利益を出して、ジョーンズ・アパレルが100億ドルの損失を出したとする
するとS&P500全体の利益はゼロになってしまう
こうなるとPERは無限大になってまうやんけ
PERは大雑把に言えば株価÷利益なので、利益がゼロになると計算不能
でも実際はそんなことありえん。これは損益を加重平均させてないからだ
だからS&P500のPERは歪んでるよね

この「歪み」は少数の企業がでかい損失を起こしたときにひどくなるよ


なんでかというと、利益がそこそこばらついてるときは歪みは相殺されてあまり影響がないんだが、今回の金融危機で金融機関なんかがあほほど損失出すと、その損失は時価総額で加重平均されることなく計算されてしまうので、損失が過大評価されてしまうから。


Siegel先生は実際の数字を使って試算をしている。

S&P500に含まれる80社が2008年度に出した損失合計は約2,400億ドルだ。S&Pのやり方だと、S&P500指数のわずか6.4%を占めるに過ぎないこれらの企業によって、なんと一株あたり27ドルの損失が出た計算になってしまう。S&Pの単純平均というやりかたは、昨年の利益合計で、39.73ドルもの間違った推計結果を生み出している。


there are an estimated 80 companies in the S&P 500 with 2008 losses totaling about $240 billion. Under S&P's methodology, these firms are subtracting more than $27 per share from index earnings although they represent only 6.4% of weight in the index. S&P's unweighted methodology produces a dismal estimate of $39.73 for aggregate earnings last year.


で、加重平均するとPERはもっと低くなるんだと。株価は変わらないとすると、利益が大きくなるってことね。つまり、時価総額の小さい企業(たとえば株価が暴落したAIGとか)の損失をきちんと時価総額で加重平均すれば、こういった企業の影響は小さくなってPERはもっと低くなるってこと。


で、PERが低いということ=つまり今はすごくお買い得なんだよ!ΩΩΩ<な、なんd


最初の記事の時点で実際にPERを加重平均したやり方で算出すると「9.4」。一方S&PのやりかただとPERは「12.5」。この差は大きいよなたしかに。



S&Pは当然あせるw


Standard & Poor'sの指数委員会の議長であるDavid Blitzerは次のように反論してる。

「この(Siegel教授の)やり方はロジックおよび指数計算の簡単なテストを通過しなかった。1ドルの利益と1ドルの損失はまったく同等であり、時価総額の大小には関係ない。


たとえて言えば、S&P500とは500の事業部門を持った一つの会社とみなすということだ。各事業部門は利益を上げており、潜在的時価総額が存在する。もっとも小さい事業部門が損失をだしたとしたら、その損失は全社的にはそのまま集計される。その事業部門の時価総額が小さいからといって、その損失を過小に評価するというのは間違っている。」


"failed the simple tests of both logic and index mathematics. A dollar earned or lost is the same, irrespective of whether it is earned or lost by a big index constituent or a smaller one."

S&P continued, "To use an analogy, we could hypothetically view the S&P 500 as a single company with 500 divisions, with each division having earnings and an implicit market value. The smallest of these divisions could have an outside loss that wipes out the combined earnings of the entire company. Claiming that these losses should be ignored or minimized because they came from a less valuable division is flawed."


でもこの説明は間違っている(僕も一読して間違ってると思った)。


Siegel先生も反論している。


「ある会社の損失は、別の会社の利益を打ち消したりしない。エクソン・モービルの株主はAIGの損失からなんの影響も受けない。(The losses of one company do not cancel the profits of another. Exxon Mobil's shareholders are not impacted by AIG's losses.)」


そして、さらにSiegel先生は面白い指摘を受けたと言う。この指摘をしたのはYale大学のRobert Shiller教授。これってオプション理論で説明できるかもというのがその指摘。

企業の資本の価値というのは、負債などを清算した後の企業の価値のオプションバリューとみなすことができる。また、個別企業それぞれのオプションを合計したもののほうが、すべての企業を対象にした一つのオプションよりも価格が高いというのは、オプション理論の基本的な定理だ。言い換えれば、500銘柄の株価の合計は、David BlitzerがS&P500のたとえに使った「500の事業部を持つ一会社」よりも高くないといけない。


The value of a firm's equity can be viewed as an option on the total value of the firm, after the bondholders and other claimants have been paid. It is a fundamental theorem of option theory that the sum of the option prices on individual firms is worth more than a single option on the value of all the firms. In other words, the sum of stock prices of 500 stocks must be worth more than "a single company with 500 divisions," as David Blitzer claims the S&P 500 Index represents.


ただし、Shiller教授はこの(Siegel教授の)方法が正しいとも言ってない。S&P500の「真の利益」というのはもっと複雑なものだろうと言っており、そしておそらくSiegel教授の計算よりもさらに大きくなるのではないかと予想している。



まあつまりUS株は今が買い時ってこった


ご利用は計画的に。