世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア


社会科学としての「経営学」の主要な研究領域とその成果についてまとまった本。実は今まで日本ではこの手の本はなかったかもしれない。


この本で著者は、経営学ドラッカーなどに代表される主にケーススタディに立脚した帰納的な学問から離れ、現在では規範的な理論に基づいた仮説を立証するために統計的に設計された実証研究を実施するという演繹的な社会科学に近づきつつある(もしくはすでになっている)と主張している。本書では実際に様々な分野での「社会科学としての経営学」の研究成果が紹介されている。


例えば第6章「『見せかけの経営効果』にだまされないためには」で、紹介されているマイルズ・セイバーの論文とか。この論文は「これまでの研究は回帰分析するときに交絡要因を考えてなかったよね」ということを指摘したもの。それまでは「海外展開するときは、買収するより独自資本で子会社設立したほうが業績にプラス」と言われてたわけだが、セイバーは「いや、技術力がある企業はわざわざ買収しなくて自分で子会社設立してるだけ。つまり技術力が業績のドライバーであって、資本の出所関係ないよ」ということを明らかにした。


⇛ Accounting for Endogeneity When Assessing Strategy Performance; Does Entry Mode Choice Affect FDI Survival? MANAGEMENT SCIENCE Vo.44,No.4,April 1998 (PDFファイル)。


でこれが結構(ノ∀`)アチャーなのは、1998年以前の多くの回帰分析を用いた研究はこの交絡要因などの検討をどうやらしていなかったものが大半を占めるという点。医学分野で言えば「二重盲検試験をやってませんでした(∀`*ゞ)テヘッ」クラスの衝撃かもしれん。当然ながら、現在の経営学はこういったことがないように、経済学や認知心理学などなどに由来する理論からスタートし、ちゃんと統計学的に問題のない実証研究手法で研究が行われているわけだが。


まだ発展途上の学問としての経営学の現在と未来がわかる面白い本。少なくとも架空のお伽話の「増補改訂版 V字回復の経営―2年で会社を変えられますか(三枝 匡)」なんかを読むよりははるかに経営という行為への洞察を得られる本だと思う。面白かった。


世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア