図書館の貸出期間と延滞についての試論

「図書館で本を借りるとしよう。現状の図書館システムでは、延滞をしたとしても(機能的な制約は一部で受けるものの)基本的に借りる側に物理的なコストは発生しない。あくまで倫理的な負担、例えば次に借りる人に迷惑をかけているかもしれないといった良心の呵責といった目に見えない負担だ。しかし貸出期間という制約によって、期間内で読み終わらないといけないという倫理上の動機が生じているのは経験上たしかだろう。


「仮に、図書館が延滞金を課すとどうなるか? 良心や倫理を金額換算してみると何が起きるのか、と言い換えてもいい。


「そう聞くと有名なこの実験(イスラエルの保育園での実験(元論文(PDFファイル))(「その問題、経済学で解決できます。」など参照]))を思い出すだろう。私の予想の前半はこの実験の結果を踏襲したものになる。つまり延滞の増加だ。最悪の場合は蔵書の枯渇を招き図書館システム自体が維持不可能になるかもしれない。


「ただし、ある点で『図書館への延滞金の導入』は興味深い可能性も秘めているのではないかと考えている。それが予想の後半部分だ。


「『支払う額によって購読可能期間が異なる電子書籍』というものがあるとしよう。一週間なら100円、2ヶ月なら500円といった具合だ。実際、視聴可能な期間によって料金が異なる動画サービスはいくつもある。電子書籍なら購読可能期間の制御は簡単に実装できる。


「さてこのようなシステムを想定した場合、【図書館に支払う延滞金で確保できる期間】と【書籍の支払額に応じた購読期間】との比較が可能となる。どちらも『自分はこの本を読むのにどれくらいの期間が必要か』という(予想)時間の関数で記述が可能だ。この場合、定価が上限となり、定価を支払えば読むために無限大の時間を購入したことになる(逆に定価分の延滞金が発生したら、その書籍を買い取る権利を得たことになるかもしれない)。


「こうやって書籍の価格を購読期間という時間概念で置き換えると、【定価】というのは読み終わらなくてもいいという【怠惰権】【放置権】の値段を意味するのである。


「つまり現在の書籍の定価売り切りシステム(と延滞金のない図書館システム)は、皮肉にも購読者に『その本を読まなくてもいい』というオプションを与えてしまっている。購読可能期間に応じたよりきめ細かい価格を設定すれば、実は書籍の読了インセンティブは現状よりも高くなることが予想される。これは明らかに人類の知的厚生を改善することになる」


「いいから延滞してる本早く返してこい」