英エコノミスト誌のいまどき経済学
メディアが「経済学」を正面から取り上げている稀有な本。日本でやるとひどいことになるケースが多いが、そこはさすがThe Economist、へんなバイアスがかかることなく、理論と現実、成果と課題についてバランスよくとりあげている。
本書は2部構成。経済学の過去から現在を見る1部と、これからの経済学を見通す2部。
第1部:経済学とはいったい何?
- 1章:経済学の基本をめぐる議論:ここでは景気、GDP、貧困といった概念について、「何をどう測定するべきなのか」を論じている。この議論って実はすごく大事で、「貧困」が何を指しているのか、どういう状態のことをいうのかを定義(共有)しないまま議論してても意味ないよねー、と。そして数値化の限界も認めつつ、でもやるしかないだろと前を向いた内容。素晴らしい。
- 2章:経済はどのように成長するか:成長理論分野についての様々な成果をまとめた章。人口、制度、技術、政策、交易といった様々な要因がどのように経済成長に関係するのかを幅広く扱っている。
- 3章:マクロ経済のマネジメント−財政政策と金融政策:リーマン・ショック以降のデフレ回避のための各国の政策をマクロ経済学の観点から整理。日本ではおなじみの論点がならぶ。ただ日本ではこの手のちゃんとした整理はあまりお目にかからなかったんだけど。
- 4章:ミクロ経済学−万物の経済学:最近の行動経済学(さらには神経経済学)の知見を活かして、以前は経済学の対象とは思われていなかった分野への進出をまとめた章。「経済学帝国主義」と揶揄されることもあるらしいが、いいぞもっとやれ(経済学部出身)。
第2部:欠陥と処方箋−経済学の未来
- 5章:経済学の失敗:なぜバブルを事前に食い止められなかったのか、金融危機を防ぐような制度設計はできないのかといった点に関しての経済学批判。「批判」だよ、「否定」じゃないよ。
- 6章:進化しつつある分野:統計学の手法を適用することで社会科学でも「実験」と同様の検証ができるようになったよ!とか、インセンティブ設計の進歩凄いんすよとか、脳科学を応用した神経経済学の話とか。ビッグデータとかも一応ね。経済学の未来は明るいよ!世界はまだパレート最適ではないんだよ。よかったね!(おい)
- 7章:新進気鋭の経済学者たち:「俺達売れる前からクルーグマンとかレヴィットとか評価してたんすよねー」
The Economistの中の人はちゃんと経済学が分かってるからいいよなあ。日本のメディア業界の経済学への無理解はちょっとひどいから羨ましい。いい本。
- 作者: サウガト・ダッタ,松本剛史
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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