しつこいすか?

http://d.hatena.ne.jp/yukihonda/20051205

OECDによる日本の若年雇用問題への政策勧告に依拠しつつ、正規雇用者の雇用保護規制の緩和と非正規雇用の労働条件の改善すなわち賃金と社会保険に関する正規/非正規間の雇用条件の均等化を提唱


マクロの視点も一部ありますが、一応ミクロ的な制度設計に近い問題と思われ。
この論点であれば、それこそまさにミクロ経済学的な訓練を受けた識者が頑張るべき問題であると言い切れるし、さらに、この問題を語ろうとするのであれば最低限のミクロ経済学的な知識は必要だとも言いたくなるのではないかと。




で、個人的には本田先生の「均等待遇」の論点に関わると思われる「正規雇用者とパート・アルバイトの賃金格差」の部分が特に気になるわけです(今回は丁寧語で書くぞ)。

日本の場合、哀しいことに他のOECD諸国と比べて日本のフルタイム/パートタイム賃金格差が著しく大きいということ(他国は70〜80%だが日本は約50%)


なんとなくお囃子が聞こえてきそうな気もしますので、以下は僕が検証するとしたらたぶんこういう作業をするだろうなという作業項目をリストに。いや、絶対僕はこんな作業したくないですけど。

  • まずは、OECDの「正規雇用者」と「非正規雇用者」の定義を調べてみます。
    • 日本の「正規雇用者」は、ある意味理不尽な残業・出張・転勤・左遷・昇進をさせられているのではないかと現場にいる人間は思ってしまいます。
    • 例えば、育児休暇を素直に取れるか、保育所のお迎えがあるという理由で毎日5時(この時間でも住んでる場所によっちゃアウトだ)に会社を出られるか、家庭の事情で出張のオファーを断れるか等々の事情は、果たして他のOECD加盟国でも似たようなものなのか?
    • 確かに単身者にとっては、このOECDの調査結果はフーン( ´_ゝ`)ですが
    • が、小さいお子さんをお持ちの家庭で、例えば奥さんが派遣で働いているとして、「いや、君は優秀で正社員よりも仕事できるから、正社員と同じ給料ね(ただし、残業・出張・転勤・左遷・昇進も同じくらいくるかもよ)」と言われたときに素直にそれに乗れるかと。
  • というわけで、他のOECD加盟国の労働契約の中身と、その運用実態、その次に日本の労働契約の中身とその運用実態、さらに言えば、正規雇用者と非正規雇用者の間でどの程度労働契約の重さが違うのか(特に、小さいお子さんがいる可能性の高い年齢層の契約実態が知りたい)を調べてみます。つまり以下のような項目。
    • 残業の有無
    • 定時退社の可否
    • 転勤の有無
    • 昇進・左遷による勤務形態の激変の有無
    • 育児休暇・育児休業の仕組み
    • (労働契約とは関係ないですが)保育所学童保育所の営業形態(保育時間とか料金とか)


この作業を通じての僕の仮説としては、「日本の正規雇用者の置かれている立場は実は非常に『非人間的・非家族維持的』な状況であり(そこのフェミニスト!ちょっと黙って!)、仮に金銭的報酬が正規雇用者に近づくとしたら、同じような『非人間的・非家族維持的』な雇用形態を押し付けられる可能性があるのではないか?と、非正規雇用者は思ってるんじゃね?」ということです。


分かりにくく言えば、「非正規雇用者は、正規雇用者の待遇に近づくことのリスクを不確実性と捕らえてしまっており、実際のリスク以上に過大に評価してしまっているのではないか(ただしリスク以上の不確実性を持たないとは誰もいえない)」ということです。分かりにくいですね。


言い換えれば、『日本の非正規雇用者は、確かに賃金格差を押し付けられているが、それは「快適な生活・家庭を維持する」という目的のためには支払うべきコストとして非正規雇用者自身が暗黙のうちに認知しているのではないか?』ということです。確かにこの仮定はニートの問題とは視点がずれてますが、この文脈(=正規vs.非正規の賃金格差)においては、意味を持つのではないかと。


管見になることは承知の上で書いてますが、僕の会社の周りの派遣社員の方々は、まあパートナーがそれなりの企業に勤めていて、いわゆる『寿退社』的な会社の辞め方をした方が多いのですが、彼女(残念ながら彼はいませんです)達は共通して「今の仕事は前の会社よりも(正社員で働いていたときよりも)楽。だって残業ないし。それに扶養者控除って面倒だし。これくらいのほうがいい。」とおっしゃいます。


仮に僕なり上司が、彼女達に「もっと働いてくれ、あいつ(うちの正社員)の仕事やってみない?同じくらい給料出すから」と誘ったとしても、彼女たちは当然、そのオファーの言外に含まれている『残業・出張・転勤』等々の不確実性を敏感に察知しているようです。


ただ、問題は、それでも彼女達は十分な生活を享受できるわけですよ。旦那(ああ、書いちゃった)の稼ぎはそれなりにいいわけですから。


何が言いたいかというと、「正雇用者と非正規雇用者の賃金格差を闇雲に均衡させようとすると、企業側は『んじゃ、給料分の理不尽なオファー出すよ』というインセンティブが生まれ、被雇用者側には『やべ、これ給料上がったら残業って言われてお迎えいけねーし、出張とかありえねーし、扶養者控除もなくなるんじゃね?』というミスマッチが生じてしまうのではないかと。実際、派遣の最長契約期間を1年に短縮するという話が出たときには、相当数の派遣の方が「余計なことすんじゃねーよ!」とおっしゃってました。いや、どう見ても管見です。本当にありがとうございました。




というわけで、何が申し上げたいかといいますと、以下のような感じです。

  1. 『非正規雇用者』と一くくりにするべきじゃない
    1. 家庭環境、収入状況諸々の事情によって、働きたい時間と働ける時間は千差万別。これを正規雇用者という一くくりの基準によって判断すると危ない
  2. 余裕をもってる『非正規雇用者』もいる一方で、余裕のない『非(ry』もいるので、保護なり格差是正をするのであれば、余裕のない『非(ry』をターゲットにすべき(逆に余裕のある層(25cansとか読んでる人)は別に今のままでいいんじゃね?)
  3. で、この区別を企業にさせるのは無理。もしこの選別を企業に任せると、企業としては絶対に余裕のある人を選ぶインセンティブが働く(余計なコストがかかる人なんてえらばねえよ)。
  4. とすると、企業側の格差是正措置よりも政府側の格差是正措置のほうが効くんじゃね?
    1. だから政府には、家計収入とか家族構成に添った形での控除枠の設定とか、生活保護の対象世帯拡充、プラス生活保護拡充とセットで生活保護っていうネガティブなネーミングの変更(なんかないすか?)あたりを期待したい
    2. あわせて企業側としては、正規雇用者の就業環境を、(当たり前の生活が送れるくらいという意味での)非正規雇用者の環境に近づける努力はしなきゃいけないと思われ(つか、家庭を持ってる人間らしく扱ってくれ)
    3. そういう意味では政府に、企業におけるムリムダムラの残業・出張はヤメレ!という改善義務のある法律を作ってホスイ。


即効性があるか?と聞かれると・・・((;゚Д゚)ガクガクブルブル  あとは各位の実証研究をお待ち申し上げております。


で、最大の問題は、この研究はニートの問題を扱っていない可能性があるということですかね。ここはNo Ideaです。