コーポレートファイナンス入門後にぶち当たる壁


Life is beautiful: コーポレート・ファイナンス入門
⇒ http://satoshi.blogs.com/life/2007/02/post_10.html


↑を読んで思いつくままに。


あ、ツッコミではありません。実務で使っているとこういうことを言われた経験があるなあ、ということで。逆にいえば、(自己の過去を振り返ってみた場合にも)初学者の方が納得しがたい and/or 理解しにくいかもしれない概念はこういうところかもなというメモくらいということで。

「このキャッシュフローの見通しは正しいのかね?」
CFの試算モデルを延々と説明し、ありえないほど細かい可能性を指摘され、それに応じてモデルを(何度も何度も)修正するも、最終的に「そんなのやってみなきゃわからんだろ」といわれて撃沈
「割引率はどうやって設定したんだね?」
プロジェクトのリスクや金利動向、WACC等に基づいてこの水準に設定しましたと説明するも、「で、この数字が絶対に正しいという根拠はなんだ?」といわれて撃沈
「この予測が外れる可能性はないのかね?」
CFを推計する際に複数のシナリオを検討していることや、各パラメータが変動した場合の感応度分析(金利を20ベーシスずつ変動させた場合のNPVの変動とかあれやこれや)、リスク分散のために段階的投資(リアルオプション)を検討したこと、パッケージを使ってモンテカルロシミュレーションをやった結果等々から、NPV(なりEVA)は有意にプラスになりうることを説明するも、「それにしたって失敗するリスクはゼロではないんだろ」といわれて撃沈
「で、結局儲かるのかね?」
NPV(IRRとかEVAとか)はプラスなんだから実行する価値がありますと説明するも、「で、回収には何年かかるんだ?」と言われ撃沈


ま、ようはコーポレートファイナンスなんてものは、

「不確実性」
=何が起こるか、どのくらいの確率で起こるのか、起こった場合どうなるかといったことがなにも分かっていない状況


を、いかに

「リスク」
=起きうること、起こる頻度、起きた場合のインパクトの可視化


に転換させるかという作業なわけで、そこに「絶対」とか「リスクゼロ」とか「確実な予測」なんてものはもともと存在しないわけなんだが、なぜか「ファイナンスの考え方を用いるのであれば、リスクをゼロにしろ」という強いプレッシャーが存在しているのはどういうことなんだろうか。


で、こういうやりとりを繰り返している間に、結局「目をつぶって両足でピョン!」といった勢いのあるプロジェクトのほうが採用されてたりしてて笑う。例えば「初年度、二年目は赤字ですが、その間市場は年率120%で成長しており、三年目からは黒字転換、投資回収は5年で終了します」なんて事業計画は素通しだったりするというような。いやまあ機械の経年劣化による更新投資とかならここまで手間かける必要はないけど、新規事業でこれやったらアウトだろとか思うわけだが。




こういうの見て『日本企業は臆病だ』とか『リスクを積極的にとらない』なんていわれ方をされているのが不思議でならなくなったりしたらコーポレートファイナンス入門は修了といっていいのではないかと。




あと蛇足ですが、B&Mの「コーポレート ファイナンス(第8版) 上」は最高ですが、全部を読みとおしているような人はほとんどいないのではないかと。前半部分はだいたい読んでますが、後半に関しては通読するというよりは、分からないことがあると該当する部分を参照するという使い方が周りには多かったです。