【蛇足】あえて映画ビジネスにたとえるのであれば


「クラブ」とは「映画館」に近い存在だと思う。


対比させてみる。

クラブ 映画館
選手、監督 作品
チーム戦術 作品ラインナップ
スタジアム ハコとしての映画館
練習設備等 音響設備等
サポーター コアの観客
ファン 一般の観客


映画館は配給会社から作品を買ってきて上映して観客からお金をもらう。これはクラブが監督や選手を集めてサッカーをしてお金をもらうという構造に一致する。問題は、映画館それ自体は個々の作品に関わらず永続することが要求される対象だということ。


「ここんところこの映画館のラインナップつまんないよな」となれば観客は減るし、そうなると映画館の経営は成り立たなくなる。また、ハリウッドの大作だけど駄作ばかりを流す映画館にはそういう客層しかこなくなるし、逆に無名の単館映画ばかりでもマニアしか集まってこないし、へんにでかい規模のハコでそれをやったら早晩経営は傾くだろう(ド田舎に岩波ホールを作ったらどうなるか想像すればいい)。一方で立地とコンテンツ選択を間違えなければ名画座でも存続させることは可能だろう。言い方を変えれば、規模と客層にあったコンテンツ・設備を整えることが映画館の経営では重要になるということ。


例えばその地域に一つしか映画館がない場合はどうだろうか。個々のコンテンツになるべくはずれがないようにするというのも大事なことだが、映画館がなくなって映画が見れなくなるということのほうがはるかに深刻だ。いくらコアの観客がマニアックな映画を望んだところで、客が入らなかったら経営が傾く。そうなると春休み東映マンガ祭りをやることも必要だ。逆にもし儲かっているんなら、ハリウッド大作だけじゃなくて、もっと小さ目のハコを作って、そこで単館モノの名作を流したっていい。


設備投資も重要な問題だ。ハリウッド製の5.1chのすげえ映画を見させてくれといっても音響設備が整っていない映画館にそれを要求するのは無理だ。それを可能にするためにはもっともっと映画館に儲けてもらって音響設備に投資するための利益を上げてもらわないといけない。そうなると多少内容に不満はあっても儲かる作品を上映することも我慢しなくちゃいけないかもしれない。一年中東映マンガ祭りでも受け入れないといけなくなる時期もあるかもしれないってことだ。将来のために。


こう考えると先の記事の比喩が間違っていることがわかる。サポーターといわれている人たちは、映画が好きで、自分たちの町の映画館に通っていて、ずっとこの映画館ですばらしい映画をみたいと思っている人たちなのだ。決して個々の映画作品の良し悪しだけを見ている人じゃないのだ。ここの映画館がつまらないなら隣町の映画館に行けばいいじゃんという話でもないのだ。自分たちの町の映画館を少しでもよくしたい、そしてよりよい映画をたくさん見たいと願っている人なのだ。


だからこそ彼らは映画館に対して、「つまんねえ映画ばっかり流してるんじゃねえ」とか「音響設備もっといいやつ入れろ」とか「そろそろあのぼろいシート入替えろ」とか「ポップコーンの味を良くしろ」とかってな注文をつけるわけだ。


そしてその映画館がたまたま掘り出してきた名もない映画がヒットになって、その映画館が儲けたりすると嬉しい反面、その映画の版権を買われてメジャーな配給に載っちゃったりするとそこはかとなく哀しくなるような人たちなのだ(ビッグクラブに有望な若手を持っていかれる弱小クラブの悲哀を感じるよな)。




件の記者は「素人が映画館ビジネスに口なんか出すんじゃねえよ」と思っているのかもしれないが、そっちこそ余計なお世話だ。映画に、そして自分の街の映画館に対して愛情があればこそ文句もつけるのだ。映画館がなくなってもらっては困るから。映画が見れなくなったら困るから。


そして、Jリーグのサポーターは「横浜フリューゲルスの消滅」という人災をすでに経験している。映画館がなくなった街の悲劇を間近で見ているのだ。あの悲劇を繰り返させないためにもこれからもサポーターは声をあげつづけると思うし、またそうすべきだと僕は思う。