「日銀陰謀論」を唱えたつもりはないですよ


昨今の経済政策運営に関しては日銀を批判しますが、今回の総裁人事のについてのあのエントリで最も言いたかったことは、最後のパラグラフの部分です。ようは「今の民主党と過去の自民党バーカバーカ」ということと「日銀法改正してくださいお願いします」ということです。わかりにくかったですか。サーセンwww


単純に、プロパーが総裁になったから日銀役職員は歓迎しているはず、というのはいかにも単純すぎ、組織防衛の観点からも以上のとおり日銀にとっては苦い現状であるとwebmasterは思うのですが、いかがでしょうか?



プロパーが総裁になったこと、そのこと自体を歓迎するほど日銀職員は単純ではないと僕も思います。その意味で「このような総裁人事に日銀が主体的に臨むインセンティヴは考えがたく」という点にも賛成です。


あのエントリで言いたいことは、

  1. 結果的に、日銀の願いである「金利正常化」を進めるであろう白川総裁がトップについたこと
  2. 結果的に、政府(自民党)と財務省がその政策に口出ししにくくなったこと
  3. 結果的に、民主党というアホ集団が自分たちの応援団になっちゃったこと

の3点です。すべて「結果的に」という但し書きを書くべきでしたね。


総裁人事に関して日銀の役職員の方々が暗躍したといった陰謀論は、少なくとも僕は書いてないつもりです。誤解を招いたのであれば申し訳ない。




ただし、だからといって

今頃、日銀幹部や国会担当者は、今後いかなる難局が押し寄せるかを想像するだけで頭が痛い状況でしょう。


という状況に同情する気が全く起きないのも事実です。



日銀は「物価の安定」という機能を果たしていないにもかかわらず、その責任を問われていないことは相変わらず問題


マコーミック米財務次官(国際金融担当)は27日、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで講演し、日本経済について「デフレが驚くほどしつこく残っている。内需、特に個人消費が弱い」と述べ、構造改革による日本の成長力底上げに強い期待を表明した。



こういった記事を見ても、日銀が果たすべき「物価の安定」の成果に疑問がありますし、すでにあちこちで突っ込まれているように、日銀の目指す「物価の安定」という目標自体にも問題があるんじゃね?と思っています。

  • そもそも日銀は「物価の安定」に失敗したのか、成功したのかということが全く議論されていないこと
  • そもそも『失敗』か『成功』かを判断しうる基準が日銀内部以外に存在しないこと
  • そしてその『基準』は外部からコントロールできないこと
    • 「物価の安定」でいうところの「物価」が恣意的に選択されている可能性があること(GDPデフレータやコアコアCPIの意図的な軽視など)
    • 「安定」という状態の定義に問題がある可能性があること(CPIの上方バイアスの存在や、「0%以上」といった定義など)


今回の総裁人事の騒動で、これらの論点が出てくることはほとんどなかったと思います。前総裁(前々総裁も?)の就任期間における経済政策運営に対する評価はほとんどなかったといっていい状況に僕には見えます。



もういいかげん日銀と政府は「安定成長を維持する」というアコードを結ぶような日銀法改正をやってくれよ


kaikajiさんのところでも引用されてましたが、「スティグリッツ教授(ry」のpp.71-72あたりをここでも引用しときます。

中央銀行は物価の安定に専念したほうがインフレをうまく抑制できるということだ。しかし、インフレの抑制はそれ自体が目的ではない。それは、より高くかつ安定した成長を、より低い失業率で達成するための手段にすぎないのである(p.71)

インフレ抑制に専念するというのは、長年インフレが続いている国にとっては理にかなった策だとしても、日本のようにそうでない国の場合は賢明な策ではない。(p.72)

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く


bewaadさんにこの手の釈迦に説法をするつもりは毛頭ありませんが、もしこのような「中央銀行の果たすべき役割」が国会で散々突っつきまわされて総裁以下の日銀役職員が苦労するというのであれば、僕はなんとすばらしい状況だと寿ぐことでしょう。



でも今回の民主党の斜め上の対応で日銀法の改正は遠のいたし、結果的に日銀は「金利正常化」をしやすくなったよね


結局のところ日銀役職員にとっては、総裁人事決定プロセスは、

  • 自分たちが許容できる人選で、
  • 自民党の主導によって定まり(=後々まで自民党任命責任を自覚してくれるよう)、
  • 野党とも波風立たぬように決まる、

ものであってほしいはず。



という点に関しては、2と3の対象が入れ替わっちゃったね、というのが僕の見方です。日銀役職員もおそらく望んでなかった形で以下のようになっちゃったのかなと。

  • 自分たちが推したように邪推されかねないような人選で、
  • 野党民主党の主導によって定まり(=後々まで政局の材料につかえるよう)、
  • 政府・与党に過大な負荷をかけるように決まる


このような状況下で、日銀は経済状況がどちらに転んでも現在目指している「金利正常化」の旗を降さなくてよくなったな、と。いや逆に降ろしたくても降ろせない状況になったかもな、と。民主党と政府&財務省が不毛なにらみ合いを続けるなかで、たまに流れ弾に当たりながらも、日銀は「金利正常化」にむけて粛々と動くしか道が残されていないのではないだろうかと。


まあ日本は現在本格的なリセッションに片足をつっこんでるわけで、このリセッション対策のためにもう一度「ゼロ金利」とか「量的緩和」をさせられるかもしれませんが、これとて日銀が自分の判断で行ったわけではないというポーズが取れます。いや、日銀がそんなポーズを取らなくても民主党が「政府は日銀の独立性をないがしろにして金融緩和を強いた」と大げさに騒いでくれるでしょう。


逆に、もしリセッションが深刻化したタイミングで「利上げ」を断行したりすると、民主党からはお褒めの言葉を頂くかもしれませんw




こういった状況を日銀の役職員の方々が望んでいるかどうかはわかりませんが、少なくとも悲願である「金利正常化」への道筋は見えてるわけで、その意味で「一人勝ち」といってみますた。




その意味で、頂いた「元日銀エコノミスト」さんの以下のコメントになんともいえない風情を感じます。

元日銀エコノミスト 2008/04/08 00:31


日銀法の改正には賛成です。 でも、日銀職員が戦略的に行動して今回の結果になったのではありません。日銀職員は、「いい人」の集団ですよ。そう、「いい人」です。