クルーグマン「超過の復讐」


暇すぐる(挨拶)。なんか最近クルーグマンの一挙手一投足にドキがむねむねしてます。


ちなみにタイトルの「Revenge of the glut」の元ネタは、やっぱり「Revenge of the Sith」なのかねえ。あ、これ思い出した。bewaadさんげんきー?


ググったら「Revenge of the Nerds」なんてのも見つかったが、これは違うよなw




Krugman: Revenge of the glut - International Herald Tribune



超過の復讐


覚えてるかい?あの古き良き日々を。そう、「サブプライム危機」で騒いでいた頃のことさ。「この程度の危機ならなんとか対処できる」といってた人もいたね。おっと、感傷にひたってしまった。


今ではサブプライムローンは問題のごくごく一部の要因に過ぎなかったことがわかっている。住宅ローンの不良債権にしたって、まあ悪化したものの一部に過ぎないし。今は問題を抱えた借り手の時代だ。ショッピングモール開発業者から、ヨーロッパの「奇跡」といわれた国*1まで。そしていまだに新しい種類の債務問題がおきつつある。


この世界的な債務危機はどのようにして起きたのか。そしてなぜこれほどまで広まったのか。おそらく答えはFRB議長のベン・バーナンキの4年前のスピーチの中にある。その時バーナンキは皆を安心させようとがんばっていた。しかしその時の彼の話は、実は破滅の到来の不吉な予兆を告げるものだった。


「世界的な貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」というタイトルのスピーチで、彼は21世紀初頭に起きたアメリカの貿易赤字の急速な拡大についての新説を披露した。バーナンキによれば、この原因はアメリカではなくアジアだ、と。


彼はこう指摘した。1990年代半ば、急成長を遂げつつあったアジア経済は、一大資本輸入国だった。世界中から資金を借りて自分たちの開発原資をファイナンスしていたんだ。しかし1997年から98年にかけておこったアジア通貨危機(当時は大事件だと思ってたもんだけど、今起きてることと比べるとちっちゃい話だね)以後、アジア諸国は海外資産を軍資金として蓄積することで自分たちを守り始めた。実質的に、彼らは他の地域に対して資本輸出国になったのだ。


結果、世界は行き場を探す低利のお金でじゃぶじゃぶになった。


この資金の大半はアメリカに流れ込んだ。これがアメリカの巨額の貿易赤字だ。なぜなら貿易赤字は資本収支の黒字の裏返しでもあるからだ。しかし、バーナンキが正しく指摘したように、この資金はアメリカ以外にも同様に大量に流れ込んでいた。特に、多くのヨーロッパの小国もこの資本流入を経験した。たしかにアメリカに流入する量に比べればたいした額ではないが、小国の経済規模にとってみればその額は大きな影響を持つものだった。


さて、この世界的過剰貯蓄は最終的にアメリカに行き着いた。なぜか。


バーナンキは「各国の金融市場の充実度および洗練度(なかでも家計が住宅ローンに簡単にアクセスできるかという点の)」という言葉を使った。充実度はまあわかる。洗練度ってどういう意味?それは、過去四半世紀にわたって規制緩和に熱中して力をつけたアメリカの銀行家が、リスクを隠し、投資家をだますことで自分たちを金持ちにする非常に洗練されたやり方を見つけて世界をだましたという意味だ。


そして世界に開かれた規制のゆるい金融システムが、巨大な資本流入の受け手の性格を決めた。このことが奇妙な相関関係、つまりわずか2,3年前の控えめな賞賛*2と、今日の経済の崩壊という不気味な相関関係を説明してくれるかもしれない。Cato Instituteは「改革によってアイスランドは北欧の虎になった」と論文で宣言した。「いかにしてアイルランドケルトの虎になったか」というのはある財団が発行した論文のタイトルだ。「エストニア経済の奇跡」というのもある。この三カ国すべてが現在深刻な危機に見舞われている。


束の間、資本流入はこういった国々に富の幻想を抱かせた。アメリカの住宅購入者が抱いた幻想と同じだ。資産価格は上昇し、通貨は強く、すべては好調に見えた。しかしバブルは遅かれ早かれ常にはじける。昨日までの奇跡的な経済は今では見る影もない。保有する資産は消えてなくなり借金だけが残った国というのはつらすぎる現実だ。この借金はこういった国々にとって特に重荷になっている。なぜならこれらの借金の多くは他国の通貨で占められているからだ。


そしてこのダメージはもともとの借り手を超えて広がっている。アメリカでは、沿岸地帯で起きた住宅バブルは、バブルがはじけたら、工業品、特に車の需要に深刻なダメージを与えた。そして中西部の工業地帯に深刻な被害をもたらした。同様にヨーロッパのバブルは主に大陸の周辺国で起きたが、結果はドイツの工業製品の大幅な下落、輸出の急減となってあらわれた。ドイツでは経済バブルなどまったくおきなかったにもかかわらずだ。しかもドイツはヨーロッパの産業の中心地だ。


世界的な危機の原因を知りたければ、こう考えてみればどうだろう。われわれは今「超過の復讐」を見ているんだと。


そして超過貯蓄はまだ解消していない。実は超過貯蓄は今でもいまだかつてないでかい規模のままだ。そして、突然苦境に立たされた消費者は「倹約の精神」に再び目覚めてしまった。さらに、かつてはこれらの超過貯蓄すべてのはけ口だった世界的な住宅ブームは、世界中で崩壊している。


現下の国際的な状況を理解する一つの見方は、われわれは世界的な倹約のパラドックスに苦しめられているというものだ。世界中で起きている企業の投資意欲を上回る貯蓄超過のことだ。この貯蓄超過が、誰もが生活水準の低下にあえぐ世界的な停滞をひきおこしている。


これが現在の混乱の原因だ。そしてこれを抜け出す道はまだ見つかっていない。

*1:アイルランドとかのことかな

*2:たとえば「インフレは過去のものだ」とかのことかね。そういや「デカップリング」論ってどこにいったんだろ