金融業界って給料もらいすぎじゃね?という話


別にやっかみとか、公的資金はいってるのにとかってな話ではなく、まじめに分析した論文のお話。。




Are bankers paid too much? | vox - Research-based policy analysis and commentary from leading economists




大和総研ホールディングス /コラム:欧米金融業界の高報酬は“スーパーバブル”だったのか?経由



Are bankers paid too much?


Thomas Philippon




最新の一世紀にわたるデータにより、金融セクターの相対的な賃金の変化をもたらしている主な要因は、金融のイノベーションに続く規制およびコーポレートファイナンス活動によるものだという示唆を得た。過去10年間で「レント*1」はこのセクターの賃金の差分の30から50%にも上る。その意味で、金融マンは給料をもらいすぎている。


金融産業の従業員はここ数年非常に高い給料を謳歌していた。ウォールストリートのボーナスは、2007年には一人当たり20万ドル以上にまで達していた。2008年にはボーナスは減るものの、それでもこの産業のひどい業績という観点から見ると、驚くべきほど高い水準にとどまっていた。つまり、金融マンは給料をもらいすぎていたのである。同様のことがここでも議論されている(Duflo 2008


アメリカの金融セクターの賃金および人的資本の歴史は、非常に興味深いということが明らかになった。実際に何が起きたかを示してあなたをがっかりさせる前に、どんなことを期待しているのかをちょっと聞いてみよう。ここにいくつかの仮説がある。

  • 「経済学の教科書」仮説:金融は常に相対的に高いスキルと高い給与が必要な産業だった。そのため、銀行マンは一般の労働者と比較して、より高い学歴を持ち、より高い給与を得てきた。そしてこれは人的資源を効率的配分した結果なのだ。
  • 「寄生生物としての銀行マン」仮説:金融業界の給料は、経済の繁栄に対しての真の貢献とは無関係だ。
  • 「株式市場」仮説:株式市場が儲かれば、金融業界の給料も上がる(なんで株価が下がってる今でも給料が高いかの説明にはなってないけど)
  • 「コンピュータ」仮説:すべてのトレーダーやマネージャーは自分たちの生産性がコンピュータとITで飛躍的に増大したと思っている。なのでたくさん稼げるのだ。


過激な仮説お挙げてみたが、これらの仮説は互いに独立ではない(仮説間に相関がある)。しかし、これらのどの仮説もまったく正しくないことがわかったのだ。



Historical Evidence 史実


アリエル・レシェフと私が過去1世紀に渡る金融セクターの人的資本と賃金について分析した論文がこれだ。この論文から、現在の世界的な危機へのインプリケーションが得られる。


われわれの分析によっていくつかの新しい事実が明らかになった。第一に、金融セクターの相対的なスキルの高さと相対的な賃金水準は1909年から2006年にかけてU字カーブを描くというものだ。1909年から1933年にかけて、金融セクターは高いスキルと高い賃金のセクターだった。1930年代に劇的なシフトが起きた。金融セクターは、他の民間セクターよりも高かった人的資本と賃金のプレミアムを急速に失っていった。この減少はよりゆっくりとしたペースでは合ったが1950年から1980年まで継続した。この時期までに、金融セクターの賃金水準は、平均すれば他のセクターとほぼ同じ水準になった。1980年意向、別の劇的なシフトが起きた。金融セクターは再び高いスキル・賃金の産業になったのである。厳密に言えば、直近のサンプルまでで見ると、相対的な賃金と学歴レベルの差は1930年代以前とほぼ同じ水準にまで戻ったのである。


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職業に関するミクロデータを用いて、われわれは金融産業の作業の複雑さを測定する指標を作成した。この指標を使うことで、われわれは過去一世紀で似たようなU字カーブを描き出した。1930年以前と1980年以降、金融業務は他の非金融産業と比較して、より複雑かつ非日常的な業務が増えていたのである。一方でサンプルの真ん中の時期はそのような変化は起きていなかった。


そこでわれわれは金融産業の人的資本の進化を起こす力を特定しようとした。


金融における相対的な賃金と学歴は、1920年代と1990年代でほぼ同じ水準だった。ただし、1990年は主な上昇要因である技術的要因、特にITの要因を除外してある。1960年以前、民間で使用できるようなコンピュータは存在しなかった。つまり、金融セクターの賃金の伸びはIT革命による機械的要因に起因するという考えは、史実と食い違うのだ。


史実によれば、いくつかの単純なマクロ経済環境による説明も除外できる。たとえばPER(株価収益率)の平均値と時価総額GDP比のどちらとも、賃金の時系列データとは相関が低かった。1960年代と、2001年のITバブル崩壊以後に株ブームがあったが、全期間を通じて相対賃金の時系列データの相関は小さい。これは貿易の対GDP比にも当てはまる。


われわれの調査は、金融セクターの規制緩和と人的資本の間に強い相関があることを明らかにした。高いスキルの労働力は大恐慌時代の規制強化*2の時期に金融セクターを離れていき、この規制が撤廃された時期*3流入が生じていた。この相関は金融業界全体とその周辺産業の双方で確認できた。またわれわれの相対的複雑性指標によれば、規制は学歴の高い高スキルの労働者の創造性と革新性を欲心する効果があることがわかった。そして規制緩和は創造性と革新性を解き放ち、高スキルの労働者の需要を高めるのだ。


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金融業界の高いスキルの需要に大きな影響を与えている二つ目の要因は、金融以外の企業行動だった。特に、IPO(新規株式公開)とリスク資産だ。新しい会社は企業価値評価が難しい。こういった企業は新技術や新しいビジネスモデルに関係していることが多く、過去のトラックレコードが存在しないという明らかな理由からも評価が難しい。また、リスクの高い債券を値付けしたりやヘッジしたりするのは、国債よりもはるかに難しい作業だというのに似ている。実際、IPO活動とリスク資産に関する活動の総量が増加すると、金融産業の人的資本圧力が強まるという結果が出た。より限られてはいるが、コンピュータとITもまたこの作用を持っている。通説とは逆に、コンピュータは金融産業の進化にはたいして寄与していない。サンプルの最初のほうの1920年代の金融産業は、当時はコンピュータがなかったにもかかわらず1990年代と非常に似ている。



Are bankers over-paid? 金融マンはもらいすぎなのか?


金融の創造性に対する報酬は高すぎたのだろうか。われわれは金融の相対的賃金を示すベンチマークを計算した。このベンチマークは学歴と雇用リスク、また同様に時期によって異なる学歴の期待リターンを調整したものである。この賃金ベンチマークは1910年から1920年、そして1950年から1990年という二つの期間の実際に観測された相対賃金をよく説明した。一方で、1920年代半ばから1930年代半ばにかけてと、1990年代半ばから2006年までの二つの期間では金融産業の従業員への報酬は、安定した労働市場の均衡からは大幅に上方に乖離していることが明らかになった。


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最終的にわれわれは次の結論に達した。2006年時点において、銀行マンは40%程度給料をもらいすぎていたと。



Conclusion 結論


長期的に見て、金融セクターの相対的なスキル需要と相対賃金のもっとも重要な変化要因は、金融イノベーションに伴う規制と企業のコーポレートファイナンス活動であることが明らかになった。


さらに、規制の性質とタイミングが変化することで、技術革新によって引き起こされた規制緩和と創造的破壊の因果的役割の方向性が決まることがわかった。


一方で、金融産業の従業員の相対賃金の変化は経済環境の変化に対応して起きる効率的市場調整の一部である。このことは特に非金融セクターの企業のファイナンスニーズの変化によって、金融産業に求められるスキルの需要が変化することで説明できる。


しかし他方で、1990年代末から観測された30-50%もの賃金の差分がレントであるということもわかった。この意味で銀行マンは確かにもらいすぎなのだ。


われわれの分析結果は規制に対して別の重要な示唆を与える。1930年から1933年と2007年から今年にかけての機器に応じて、規制当局はずさんな監視の責任を問われている。Pecora Hearingsによってこのようなずさんな監視は1933年と1934年に公になり、金融規制のためのケースとなった。そしてこれによって1933年のグラス・スティーガル法、証券法、および1934年の証券取引法の制定につながるのである。


過去を振り返れば、規制当局は金融産業についていくための人的資本を持っていなかったし、有効な規制を行使するための十分な知識も持ち合わせていなかった。


ここまで述べてきた賃金プレミアムを前提とすると、規制当局が高いスキルを持った金融の専門家をひきつけ、維持することは不可能である。なぜなら規制当局は民間の金融機関の給料と競争などできるわけがないからである。われわれの分析によって規制が失敗したことの説明が得られるだろう。


もちろん、規制当局は来年にも低い賃金でスキルを持った人員を雇うことができるだろう。ちょうど1930年代にそうだったように。



雑感


規制緩和と企業のファイナンス行動の変化なのかー。規制緩和はいわれてみれば目ウロコ。数学科出身のやつがポルシェ乗り回してたのはこういうことだったのね。


因果関係がどうかは別にして、規制緩和と今回の金融危機を絡めた話についてはこのへんを読むと面白いかも。


「なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学」を読了|紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに
ウォールストリート日記 : 投資銀行はどうすれば変わるか?

*1:供給不足による超過利潤、とかって説明でわかるかな

*2:1933年のグラス・スティーガル法のことだろうね

*3:これはたとえば1999年の金融機関の垣根をなくした金融制度改革法、通称「グラム・ビーチ・ブライリー法」あたりをさすんだろう