料理の四面体 (中公文庫)


古今東西の様々な料理を換骨奪胎(褒めてる)して料理の本質を4つの要素に還元し、それらの要素の組み合わせによって料理を再構築した本。初版は1980年と結構古い。


内容は非常に面白い。4つの要素「火」「水」「油」「空気」を抽出する際に、様々な料理をその構成要素にどんどん還元していく手際は鮮やかで、「料理を料理する」メタな流れは読んでいて気持ちいい。類推が類推を呼んで、作者すら予想してなかったような結論に行き着く「あれよあれよ感」は楽しいものだ。


ただ残念ながら本書で展開される「料理を要素に還元し、そこから再構築する」という方法から導き出された結論、つまり「料理の四面体」そのものは現代的な意味はあまりない。本書の論理展開は出版当時では目新しい試みだったのだろうが、現在は調理法や味付けを科学的に分析し、その知見をいかした料理法とその理論体系がそれなりに存在する。そしてその知見からみると本書の論理は必ずしも肯定されないだろう。以前「男のパスタ道 」のログを書いた際にもその手の本をいくつかあげた。料理を少数の要素に還元し、その要素から再構成して料理の幅を広げるという方法はすでに確立されたものとなっている。


もしこの本に20年くらい前、一人暮らしをはじめた時あたりに出会っていればどうなっていただろうか、とふと考えた。おそらくえらく衝撃を受けただろうなと思う。もしかしたら今とは全く違う人生を歩んでいたかもしれない、というくらいの想像は浮かぶ。ある程度料理もし、自分なりに料理本も読み、それなりにいろんな店や国でいろんな料理を食べた今だから、この程度の衝撃で済んでいるのだろう。読書もまた出会いの一つだな、と思わせる本だった。


料理の四面体 (中公文庫)

料理の四面体 (中公文庫)