釈然としないソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)の再上場

⇒NIKKEI NET:ソニー、SCN株売却で税引き後利益112億円・損益改善も
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20051208AT2D0801Q08122005.html


これって株価操うわなにをするやめqあwせdrftgyふじこlp




日本初(そしてたぶん最後)のトラッキングストックとして華々しく登場し、弁護士事務所と証券会社だけが手数料で儲かり、株価は長期低迷というなんのためだかわからない資本政策を行っていたSCNがトラッキングストックをやめて、マザーズに再上場する運びとなった。

⇒「So-net」を運営するSCNがマザーズ上場へ
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/11/14/9840.html


この再上場の方針は、今年の4月時点で匂わされていたわけで、まあ規定路線と言ってもいいかもしれない。

Sony Japan|プレスリリース | 子会社連動株式にかかる資本政策の変更について
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200504/05-023/


で、実際にトラッキングストック解消+再上場が決定され、それに伴って、今までのトラッキングストックを親会社のソニー普通株と交換することも決まった。

Sony Japan|プレスリリース | 子会社連動株式の一斉転換に関するお知らせ
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200510/05-061/


この交換比率はそれぞれの基準価格を元に、SCN株一株あたりソニー株1.114株と決まった。で、ソニー株がなぜかじわじわと上げているので、それにつられる形でSCN株も急騰。ま、おおよそ90%(1/1.114)の価格でソニー株が買えるということなので、ソニー株の1.1倍程度までの価格まで裁定が働くのは当たり前ではある。


でもなんかこの一連の動きが釈然としない。

そもそもトラッキングストックにする意味があったのか?

2001年にSCNは完全子会社化された上で、トラッキングストックになったのだが、そのときの理由は以下のようなもの。

ソニー(株)はSCNの発展に向けたグループ事業戦略として、2001年6月、その経済価値がSCNの経済価値と連動することを企図した子会社連動株式を発行し、SCNの100%の経営権を保持しながら、SCNの個別の価値を市場において顕在化させることを通して、同社の企業価値向上に努めてまいりました。


(上記 Sony Japan|プレスリリース | 子会社連動株式にかかる資本政策の変更について より抜粋)

ま、ようはコングロマリットディスカウントはいやだけど、経営権が握れないのもやだ、ということでこんな方法を取ったわけだが、では実際どんなシナジーがあったのかがまったくわからん。


個別の事業シナジーを検証するのはめんどくさい(でも基本的はないだろシナジーなんか)ので、資金面に絞ってみてみる。


ラッキングストックとはいえ、市場から資金を調達することには変わりないわけで、2001年6月のトラッキングストック発行時点で市場から調達した額は約95億円。時代はまさにブロードバンド黎明期であり、この時はまだ回線屋さんよりもISPNiftyとか)が幅をきかせてた時代だった。で、この資金を使ってSCNは何をしたか?いっせいにコンテンツ事業に投資をしたのである。それもPostPetに代表される独自コンテンツだ。


で、まあ一時は利益に貢献するんだ、あのピンクの熊。ところが思惑むなしく世の中はYahoo!BBADSLばらまきによって引き起こされた回線獲得競争へと一気にシフト。この流れに出遅れたSCNは金を生む(とはいえ、当初の獲得コストはでかかった)接続会員を伸ばすことが出来ず、無料コンテンツに慣れてしまった金を落とさないコンテンツ会員ばかり膨らむというわけのわからん会社になってしまった。


で、2003年頃から慌てて接続会員拡大に走るのだが、その時点では既に大勢は決まっており、会員獲得コストは激増。実際に2003年度のSCNの業績は大幅な赤字に転落。ま、そらそうだわな。


で、もう一つの投資先はベンチャーwwwww 結果的にはこいつらがSCN(というかソニー)を救うわけだが、この程度しか調達した資金は使われていない。なにやってたんだお前ら。

しかし不可解な動きをする株価


ソニー子会社連動株(TS1) (東証1部:67585)


ラッキングストック開始時点で約3,000円だった株価はその後長期低迷を続け、一時期は800円程度まで落ちた。この時期は腹を抱えて笑ったもんだ。しかし2004年5月に株価は跳ね上がる。


基本的にSCNの業績や収益構造を見る限り、2004年5月の時点で上げる要素はほとんどなかった。まあ確かにSCNが出資してたベンチャーDeNASo-net M3といった企業が早晩上場するのでは?という観測はあったわけで、その上場益による業績回復(一過性のものとはいえ)を狙った株価上昇は考えられた。ただ、本業のほうはジリ貧じゃん、どうみても。株価が上がる理由は業績以外にあると見るのが自然だ。そしてそれはトラッキングストック解消予測だと思われる。


これはトラッキングストック開始時点の目論見書の以下の項目が理由だ。

(2)一斉消却その1
当会社は、子会社連動株式の発行日から3年を経過した後は、子会社連動株式の全部につき、取締役会の決議により、当会社定款に定める方法により決定される子会社連動株式の時価と同額の金銭を子会社連動株式を有する株主(以下「子会社連動株主」という。)に支払うことにより、配当可能利益をもって強制的に消却することができる。
(3)一斉消却その2
当会社は、子会社連動株式の発行日から3年を経過した後は、子会社連動株式の全部につき、資本減少の手続に従い、当会社定款に定める方法により決定される子会社連動株式の時価と同額の金銭を子会社連動株主に支払うことにより、強制的に消却することができる。

6.一斉転換
子会社連動株式は、その発行日から3年を経過した後は、取締役会の決議により、当会社定款に定める方法により決定される子会社連動株式の時価に1.1を乗じて得られる額を、当会社定款に定める方法により決定される当会社普通株式時価で除して得られる数の当会社普通株式に転換される。ただし、かかる転換は、当会社普通株式がいずれかの取引所等に上場または登録されている場合に限って行われる。


Sony Japan|プレスリリース| ソニーコミュニケーションネットワーク(株)を対象とする子会社連動株式発行決議に関するお知らせ より抜粋
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200105/01-028/

強調部分(「子会社連動株式は、その発行日から3年を経過した後」)に注目ね。つまり市場はトラッキングストック廃止を見込んだということだ。上場して3年というのは2004年6月。条件を見れば分かるように、トラッキングストックを解消した場合、最悪でも市場時価での買い取り。うまくいけばソニー普通株式との転換。つまりほとんど業績リスクとは関係ない株になったといえる。このトラッキングストック解消予測が立った時点から、このトラッキングストックはSCNの業績に連動しないわけのわからん株になったといえる。

なんでソニー普通株式との交換でトラッキングストック解消するんだ?

最初に株価が跳ね上がった2004年5月時点の親会社ソニーの株価はソニーショック後の持ち直しのピークで、株価は約4,500円程度。なんとなくつられてトラッキングストックもあがる罠(ただしこのときは約1,500円前後の水準で推移)。仮に一斉転換されなくても、その前の水準が1,000円を切っていたわけだから市場価格の買取でも別に文句はない。


しかし、もっと美味しい株にすることもできる。それはトラッキングストック解消にあたってソニー普通株式と交換されることだ。上記消却条件で言えば「6.一斉転換」の場合になる。トラッキングストックがソニー普通株式と一斉転換されたとしたら、トラッキングストックの価格に1.1をかけた金額で交換比率が決まるわけだから、これはつまり市場でソニー株のディスカウントクーポンが売られているのと同じことだ。だって、交換比率計算するときにプレミアムが自動的について来るんだから。


というわけで、今年の4月のトラッキングストック解消とソニー普通株式との一斉転換の発表があってから株価劇上がり。株式交換比率さえ決まってしまえば、株価がソニー株の交換比率をかけた価格以下であれば、どうやったって損は出ない取引なんだよな、これ。


しかも、トラッキングストックの株価が上がればあがるほど、このディスカウントクーポンの価値も上がる。例えばこのトラッキングストックの株価が10万円になったとしたら、1万円分ものプレミアムがついてくることになる。


ラッキングストック解消&普通株式転換が決まった時点で、SCN株はSCN自体の業績なんかとはほとんど関係ないソニー株の派生商品になったしまったということだ。で、実際株価は上昇し、年初からは想像できない価格(3,882.0円)でソニー株との交換比率が決まることになる。

(2)一斉転換の比率

一斉転換日の前日時点(2005年11月30日(水))におけるソニー(株)株主名簿に記載された子会社連動株式を有する株主の皆様に対し、ご所有の子会社連動株式1株につき1.114株の割合でソニー(株)普通株式を割当交付いたします。

(注) 1. 一斉転換により割当交付されるソニー(株)普通株式は、ソニー(株)の定款第10条の9の規定にもとづき、子会社連動株式の基準時価(3,882.0円)に1.1を乗じた額をソニー(株)普通株式の基準時価(3,834.0円)で除して算出されています(小数第4位を四捨五入)。


Sony Japan|プレスリリース | 子会社連動株式の一斉転換に関するお知らせ
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200510/05-061/

しかしここで疑問が起きる。ほかの方法のほうが投資家にとってはリスクが少ないのではないかということだ。

一斉転換のリスク

一斉転換の交換比率は交換当日で決まるわけではなく、それよりも前の時期の株価を参考として決められる(以下参照)。

(2)一斉転換の比率

(中略)

(注) 2. 基準時価は、一斉転換を決議した日(2005年10月26日)に先立つ45取引日目に始まる30取引日間(2005 年8月19日から2005年10月3日まで)の毎日の東京証券取引所における子会社連動株式またはソニー(株)普通株式の普通取引の取引価格の終値の平均値(小数第2位を四捨五入)です。


Sony Japan|プレスリリース | 子会社連動株式の一斉転換に関するお知らせ
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200510/05-061/

どの方法を取ろうがまったくリスクがないわけではないが、この一斉転換をソニーが決めたあと、つまり今年の11月以降のソニー株の値動きをみてみよう。


ソニー(株) (東証1部:6758)


なにこれ?11月を境にいきなり株価劇上がり。そらまあ円安とかなんとかの要因は考えられるけど、これはちょっと説明がつかない。いくら構造改革やるとかPS3がどうしたとかCellが3.2GHzだとかいっても、赤字企業だよ?


SCN株自体はソニーの株価の交換比率1.114倍の水準までは裁定が進むため、ソニー株が上昇する限りではリスクはあまりない。ただし仮にソニーの株価が基準時価の3,834.0円の90%、つまり3,450円を割り込むとSCN株の投資家は損をすることになる(あまり考えにくいがSCN株がソニー株の1.114倍以上になっても損する)。


まあなにが起こっているのかはわからんがとりあえず株価は上がっているわけで、SCN株主の損確定水準の3,450円を割り込むことはなさそうだ。で、このソニーの株価上昇につられてSCN株も上昇することは確実だ。

でも、じゃあSCNの株価があがることにメリットはあるんだろうか?

それもトラッキングストック解消が決まったあとで。その理由が恐らく冒頭の記事になるんジャマイカ?


SCN株はトラッキングストック解消後、マザーズに新たに上場することとなる。この公募価格は同業他社比較とかまあもろもろの指標を使ってナメナメするわけだが、当然最近の株価も大きな影響を持つ。ソニーはこのSCNのマザーズ上場にあたって子会社のソニーファイナンスインターナショナルとあわせて7万株を売却する。ソニーとしては全力でSCNの公募価格を吊り上げるインセンティブがあるわけだ。


公募価格を吊り上げるエサとしては次の3つくらいが考えられる。

とにかくSCNの株価を上げる
SCN単体の業績では上昇材料はほとんどない。ただし、トラッキングストック解消時にソニー普通株式との一斉転換を選択すれば、SCNの株はソニーの株価と連動することはほぼ確実(ソニー株が低迷していない限り)。そうすれば最悪でもソニー株とほぼ同水準まで株価は跳ね上がる。これはおいしい
SCNの利益を大きく見せる
通常公募価格は同業他社のPERを参考にして決めることが多い。この際、PERが一定(まあ業界水準に準拠するとすれば)なら、利益を大きくしておけば株価は膨らむ。で、実際SCNは本業はダメでもDeNASo-net M3の株売却益で利益を膨らませることが可能だった。
SCNの成長性を喧伝する
これは難しいだろう。


で、ソニーは結局この一つ目と二つ目を狙ったのではないかと思ってる。


でもこれってある意味価格操作なんじゃね?


例えばSCNはDeNASo-net M3の株売却益を得たわけだが、これによる株主への配当増はなし。ほぼ全てが内部留保。その金額は約185億円。これって最初にトラッキングストックやったときよりも多いキャッシュ手に入れてることになるじゃん。これだけの資金を得た上にさらに上場して資金調達する理由ってなんだ?仮に現時点で決まっている公募価格34万円で7万株発行したとしたら、調達する資金は約240億円。なにするつもりだ、お前ら?


で、結局はこういうことかと。

ソニーは8日、2006年3月期連結決算(米国会計基準)で、子会社ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)株式の売却により、税引き後で112 億円の利益が発生すると発表した。今期の連結最終損益予想の100億円の赤字(前期は1638億円の黒字)に今回の株式売却は織り込んでいないため、予想に比べて損益が改善する要因になる。


NIKKEI NET:ソニー、SCN株売却で税引き後利益112億円・損益改善も
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20051208AT2D0801Q08122005.html

どう見てもソニー本体の赤字埋め合わせです。本当にありがとうございました。


私といたしましてはSCNの化けの皮がはがれて初値が公募価格を下回ることを願って止みません。