日経「ビジネス」が「反・競争」の記事をのっけてどうするんだ?(タイトル訂正)


追記:はてブやコメント欄で「この一コンテンツで日経ビジネスオンライン全体を否定するのはやりすぎだ」という指摘を頂きました。確かにその通りだと思いますので、タイトルを訂正いたしました。不快に思われた方に謝罪いたします。申し訳ありませんでした。(2008/3/28 23:08)


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「自由競争」の欺瞞と本性 (遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」):NBonline(日経ビジネス オンライン)


医療の問題とテレビで視聴率が稼げなくなった「自称文化人」の愚痴を同列に論じられてもねえ。



テレビにおける出演者の価値は稼げる視聴率で決まる


まず、この「自称文化人」のお方は、自分の市場価値が下がった理由を勘違いされているようだ。ご自身の市場価値が下がったのは「文化人が崇高だから」でもなんでもなく、ただ単に「視聴率が取れないから」だ。ご自分でも端的にそれを説明しているのになんでこんな話になってんだろ?

猛烈な勉強を経て必死で討論する私より、グルメレポーターをしている私のほうが市場価格が高いのだ。


つまりそういうこと。グルメ番組のほうが視聴率が取れるからそれに応じてギャラも高い。ただそれだけ。

私はタレントの芸を磨く一環で政治や時事を勉強した。そうしたら私の市場価格は暴落した。それをこの自由競争の社会では「価値が上がった」という。


このお方の嘆く「市場価格の暴落」とは、「視聴率を取れるという方向の才能を磨かなかったことによるテレビ番組でのキャスティング価値の下落」に過ぎない。それを見極められなかった本人がアホだなというだけの話であって、別に「自由競争」とか「テレビが面白くなくなった」とか「文化人は崇高」とかっていう話では全くない。


それにもしその努力が「価値が上がった」と評価されるようなものであるなら「自称文化人」のほうで回収すればいいだけの話。実際、こんなくだらない文章でも「自称文化人」だからお金もらえてるわけでしょ?


そしてこのお方は「ニーズからずれた努力は市場では無価値」という当たり前の大原則を改めて発見されたようだ。さすが「自称文化人」。

その努力はするに値するものかどうか、まず吟味してからでないと足元をすくわれる。そんな競争を私たちはしている。


SE目指す学生が小説の勉強して「小説かけるようになったらプログラマとしての市場価値が下がった」とか嘆くだろうか?「プログラミングの勉強しろよ」「小説家で稼げばいいんじゃね?」といわれるだけだろ。




しかし「自称文化人」の方はやはりどこか違う。単に自分がアホだったという話と昨今の医療崩壊を同列に論じてしまうのだ。


医療崩壊は「自由競争の欺瞞」なんかじゃなくて「市場設計の失敗」


医療問題、特に勤務医の疲弊の原因は、医療費の抑制のみにこだわる医療行政の失敗、および市場設計の失敗に帰せられるべき問題だ。ざっと思いつくだけでも以下のような問題がある。

  • 医療の高度化などが進んで治療に以前よりも多くのリソースが必要になってきたのにもかかわらず、医療リソースの供給を増やすような施策をとらなかったこと
  • 逼迫した供給力に応じて需要をコントロールすべきところを「診療義務」等の法律で需要量を調整不可能にしていること
  • その結果供給不足に陥ったところに訴訟リスクを激増させたため、勤務医から開業医への転向という形でますます供給量を減らしてしまっていること


そこには「“崇高だから”の理由のもとに価格を叩かれる」といった「自由競争社会の本性」なんてものは微塵もない。ただただ「市場原理を全く無視したバカな医療行政による必然的な医療システムの崩壊」でしかない。


本当に「自由競争社会」が医療の分野にも存在したのであれば、次のような現象が起こってないとおかしい。

  • 高度医療の価格の上昇
  • 自由診療の導入
  • アクセスコントロール
  • 勤務医の診療報酬の大幅増額(給料のアップ)
  • 医療分野への人材リソースの移動 などなど


しかし現在の医療行政はこのような現象と逆行する施策を行っている。「供給量は絞るけど、増えつづける需要(および訴訟リスクなどの更なるコスト増)にはこたえてね」というのが現在の日本の医療システム設計だ。だから医療従事者が疲弊するし、開業医に転向してしまうのだ。


ただし、このような需要をコントロールするための価格の上昇が起きると、当然「貧乏人は医療サービスを受けられない」という負の側面も出てくる。でも、それは「需要と供給が均衡した結果の価格」であり、自由競争社会の論理的帰結でもある。それをどうやって解決していくか(保険?社会保障?)は別途議論すべき問題だ。




医療従事者は限られた選択肢の中で、供給と需要をバランスさせるべく開業医への転向を選んだりしているのだ。バカな「自称文化人」が間違った努力をしたせいでテレビ出演のギャラが下がったなんて話と医療崩壊を比べるなんて「勘違い」もいいところだ。



そしてこの手の「反・競争主義」みたいな「反・知性主義」が嫌いだし、それに乗っかるマスコミも嫌いだ


この「自称文化人」は経済のイロハもまったくわきまえずに、ただ自分がむかつくからという理由で「自由競争」に因縁をつけている。あなたの価値が下がったのは、そこにちゃんとした「自由競争」に基づく市場が存在するからであり、そこで価値が下がったのはこれこそまさに純粋な「自己責任」に基づくものだ。


「タレント事務所がカルテルを結んでる」とか「テレビ製作はコネと裏金の世界でフェアな環境ではない」とかいうのならまだ話はわかるが、自分の努力が的外れだったことを棚に上げて「自由競争」を批判なんてしないでほしい。




そしてこの手のバカな「反・競争主義」「反・市場主義」「反・知性主義」を無自覚に掲載する日経ビジネスオンラインを僕は心底軽蔑する。