国家鮟鱇(tonmanaangler)さんのご質問への回答


昨日ryozo18さんからコメントを頂いた。 - 国家鮟鱇

世界の金融資産と世界総生産については、「比較しても意味がない」が正解なんだそうです。


比較することに意味があるケースはもちろんあります。ただ「当初のdankogai氏のエントリの文脈では比較することに意味はない」ということを述べたまでです。もし、一般論として比較することに意味がないというように取られたのでしたら、こちらの書き方がミスリーディングでした。申し訳ないです。


これ以降は半分蛇足になりますが、tonmanaanglerさんが挙げられている参考文献と、もとのdan氏のエントリの違いを説明しておきます。



dan氏のエントリでの比較の問題点


そもそも、当初のdan氏のエントリでは「GGP (Gross Global Product)が3割増しにしかなっていないのに、金融資産が倍以上になる。なぜそれが可能になったかといったら、金融経済が完全に「仮想化」されたからだ。「モノ」の裏付けがないからこそ、たった10年で倍以上(年率8.5%)という「成長」が可能になったのだ。」として、この「実」と「虚」の伸び率の乖離を問題視しています。


が、金融資産の残高(の大部分)はその国(この場合は世界)が将来にわたって生み出すであろう付加価値に基いて決定されます。その将来にわたって生み出される付加価値に対する期待が増えれば、当然のことながら金融資産は実体経済(この場合であればGDP)の伸び率を超えた伸びを示します。


また、1990年代以降、数度にわたって起きた金融危機に対応するために、各国の中央銀行はマネーサプライを潤沢に市場に供給したため、その部分でも金融資産が増大することに寄与しています。


で、当初のdan氏の論の最大の問題は、「虚」が破綻することが「実」に直接的に影響を及ぼすという主張をしていることです。

問題は「虚経済」の急成長に耐えられるほど「実経済」が大きくないこと、にも関わらず両方の経済がリンクしていることにある。虚が虚、実が実だけで回っているならいい。しかし圧倒的に多きな虚で実を手に入れようとした時、実はどうなってしまうのだろうか。


しかし、例えば日本のバブル崩壊を見たときに、金融資産、例えば株式市場は日経平均で見ればピーク時は4万円弱もあったものが、一時は8000円を割り込む水準にまで落ち込みました。この株価の下落で何十兆円もの単位で金融資産は失われています。


が、GDPがこの間に5分の1の水準にまで落ち込んでいるでしょうか?金融危機などで金融資産がダメージを受けることによって実体経済がある程度の悪影響を受けることは確かですが、金融資産の毀損の程度ほどに実経済がダメージを受けるとは必ずしもいえません。


実際に、tonmanaanglerさんが挙げられている参考文献(グローバリゼーションと時代の対抗軸(注:PDF))でも、金融資産と実体経済との比率が増大したことに対する懸念は、あくまで「金融危機が起こった際に、金融資産や資本市場がダメージを受ける」ということに対してです。

金融資産の所有者たち、にとって最大の脅威は、実体経済(2003 年の世界のGDPは 36 兆ドル)の数倍にも達した金融資産が金融危機によって突然大きく減価ないしは無価値化してしまうことである。


そして、この「過剰流動性」について、もう一つtonmanaanglerさんが挙げられている参考文献([http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/0610_1.pdf時評「過剰流動性を嫌わないで・・・」(第一生命経済研レポート 注:PDF))では、「マネーが経済活動に与える影響はこれまでより格段に重要になった。それだけ金融政策の重要性は増している」と言っており、別に「複素経済学」などを持ち出さなくても、既存の経済学の枠組みで解決を図ることを前提にしているようにしか読めません。


そして、実際に現在進行中のアメリカのサブプライム問題による金融危機は、FRBの金融政策によってなんとかかんとかパニックやカタストロフィーを回避しています。これは、僕にとっては既存の経済学の蓄積の有効性を示すもの以外の何者でもないんですが、「複素経済学」はこういった危機に何らかの対応策を示せているんでしょうか?



で、「『経済学』は簡単だ」と唱えている人はいるんですか?


あと、これは僕の個人的な質問です。


tonmanaanglerさんは、「まったく「経済学」は難しいですね。」とおっしゃってますが、どなたからか「経済学は簡単だよ」といわれたことがおありなんでしょうか?


少なくとも僕は「経済学は面白い」とは言われたことも言ったこともありますが、「経済学は簡単だよ」と言ったり言われたりした記憶はありません。また、本などを読んでも「簡単だ」という意見を見かけたことはないと思います。


ちょっと質問を変えてみます。量子力学には全くの素人の僕が、量子力学のトンデモ論を批判しているブログを見て「量子力学は難しいですね」と言ったら、多分「お前が知らないだけだろ」と流されて終了になると思うんですが、tonmanaanglerさんはどういうふうにお感じになりますか?


経済学はいうまでもないことですが一つの学問体系です。そこに出てくる用語には日常生活とは異なった厳密な定義があり、また分析の枠組みがあります。そういった一つの学問分野である経済学に対して、「俺は経済のド素人なんで」とおっしゃるtonmanaanglerさんが「経済学は難しい」とおっしゃるのはどういう意味なんでしょうか?


「経済学は実際の社会を扱っているんだからその実社会で生活している素人でも理解できるべきだ」というご意見ですか?


コメント欄でも書きましたが、あのdan氏のエントリが既存の経済学からみて意味をなさないことを判断するくらいのことは、基本的な経済学の本を読んでいればわかる程度の話だと思います。そういった前提となる知識がないままに「難しい」といわれても、こちらとしてはどうにもお答えしようがありません。


また、こういった質問にお答えするのにもコストは当然かかるわけで、すべての疑問にお答えすることもできません。嫁厨だと言われるかもしれませんが、もし経済学を理解したいとお思いなのでしたら、ごく普通に当たり前の教科書や入門書を読まれることをお勧めいたします。




それでは