New York Timesがファイトクラブを始めたようです


だって面白いもんなw


Will the Geithner Plan Work? - Room for Debate Blog - NYTimes.com


エントリーは以下の4選手。

  • Paul Krugman, Op-Ed columnist, Princeton University
  • Simon Johnson, M.I.T.
  • Brad DeLong, U.C. Berkeley
  • Mark Thoma, University of Oregon


カーン(ゴング)。

ポール君:「観念 vs. 現実」


ポール君は今回の金融危機の二つの見方を説明する。


一つは「サブプライムローン破綻の急激なショックで市場が急激に萎縮してしまっているので、ここに喝を入れればまた正常化する」というもの。この場合、現在の資産価格の暴落は一時的なもので、信用不安がなくなればまた適正価格に上昇するというもの。この場合、ガイトナー・プランはうまくいく、とする。


もう一つの見方は「金融機関はバブルに踊って、本来よりも高い価格を付けてしまっている」というもの。日本でもバブル期にはどうやっても使えない崖地に数億円なんて金を貸し込んだりしてたよね、という話。この場合、ガイトナー・プランは市場の正常化にはなんら効果を持たない、とする。


そしてポール君は「僕は後者だと思っている」と。



サイモン君:一部は有効、・・・かな?


ガイトナー・プランは「バランスシートから不良資産を取り除くこと」に関しては有効だが、銀行システムを健全化することについては機能しないとする。なぜならガイトナー・プランでは市場を健全化するにはあまりに規模が小さすぎるからだ、と。でももっと規模を大きくするのは政治的反発が強くて難しい。


もう一つの懸念が、この手の市場に基づいたスキームは「詐欺」や「不正」を引き起こしやすい点だという。


「発表から24時間たたないうちにネット上には、このプランの欠陥を突くもっともらしいアイデアであふれかえっているじゃないか」と。そして、金融機関は政府から監督されることを嫌う。監督を強めれば、金融機関はこのプランから離脱するだろうと。


なので、とサイモン君は言う。「今必要なのは『銀行高度化機構*1』、わかりやすく言うと政府監督下で銀行破たんを管理し、より効果的なやり方を探すことだ」と。サイモン君は限りなく「銀行国有化しちゃえよ派」に近いのね。



ブラッド君:なにもしないよりましでしょ


ガイトナー・プランには一定の効果あり派」のブラッド君は、「いきなりマーケットに5,000億ドルのリスク資産需要が現れるんだから、効果がないわけないよね」と。


でも「本当は4兆ドル必要なんだよなあ」とも。まあFRB量的緩和であと1兆ドル出すといってるし、この量的緩和は情報共有効果*2なんかで実際の金額の3倍くらいの資産価格の上昇をもたらす可能性もあるといってる(ryozo18としてはちょっと楽観的すぎないかと思うが)。


そしてもしそうなれば「コップの3/4水が入っている」状態になる、という。つまり投入すべき4兆ドルのうちの3兆ドル相当のインパクトがあるよ、と。仮にエキストラの効果がなくても「コップの3/8は水が入るじゃないか(4兆ドルに対して、5,000億ドルプラス1兆ドルって計算ね)」と。


で、政治的背景に配慮する。こないだのAIGのボーナスの件などを見ると、立法措置を伴う政策はオバマはあまりやりたくないんじゃないか、と。なのでガイトナー・プランは現行の枠組みでできる最善の策だと思っているようだ。



マーク君:どうすればうまくいくか教えてやるよ


「銀行救済をうまくやるたった2つの冴えたやり方」


一つ、不良資産を銀行のバランスシートから取り除く
一つ、政治的に受け入れられるやりかたで銀行に資本注入する 以上


マーク君は「ガイトナー・プランはこの二つのことをやれるチャンスだ」と見ているようだ。でも「絶対にうまくいく保証もないよ」とも。


マーク君が強調してるのは「ガイトナー・プラン」が機能しなくなったり危なくなった場合のやめるタイミングの見極め方。


一つは「無料の保険(free insurance)」を付けてもだれも乗ってこなかったらやめるべきだという。この「無料の保険」はノンリコースローンによるダウンサイドリスクの移転を指している。これによる歪みはクルーグマンなども指摘していること。


そして二つ目はこのノンリコースローンの歪みによって巨額の損失が出たときはすぐに「電源を切れ(pull the plug on the program)」といっている。だが不幸なことに、と続ける。このローン形態ではどの程度の貸出しが不良債権化しているかを素早く適切に把握するには向いてないんだよね、と。でも代替指標はあるよ、と。それは「このローンによる不良資産買取価格」だ、と。この価格が上昇してればローンはうまくいってる証拠。だがもしこのプランに価格が反応しないようであれば、うまくいってないよ、と。


で、もしガイトナー・プランがうまくいかないようだったら光の速さでやめるべきだ、と。そしてそうなったら「銀行国有化」をやらざるをえないよ、と。もしこのプランにこだわったりすると、銀行国有化はますます難しくなるよと警告。



ブラッド君再び:もう決まったことなんだよね(ただし永続的じゃないけど)


ポール君へのお返事。


クルーグマンの「銀行はバブルに踊ってありえない高値で不良資産つかんでるわけだろ?」という質問に対する答えは、「イエス」。


ただ、と続ける。現在は二つの局面が進行中だ、と。たしかにクルーグマンのいうとおり、結局は銀行国有化が最適解であり、遅いよりは早いほうがいいかもしれないけど、でもそれを通すには議会を納得させなきゃでしょ?、と。ガイトナー・プランはその意味では政治的にはTARPの1,000億ドルを有効に使えるやり方じゃないだろうか、と。


そして、副次的な効果として「ガイトナー・プランとかいろいろやったけどダメでした。もうあとは国有化しかありません」と数ヵ月後にいうための布石にもなってるよね、と。


マーク君再び:場当たり的な銀行救済だよね


サイモン君へのお返事。


サイモン君が「銀行救済の手続きをもっとかっちり決めるべきだ」という意見への賛意表明。今回の金融危機の教訓を活かさないといけないよねという話。


大枠だけいえば、ようは銀行のサイズをでかくなりすぎないように規制せよ、と。さらに相互参入(たぶん銀行と証券の垣根撤廃のことだろうね:ryozo18注)も禁止だ、と。ようは「Too big, too fail」にならないように「too big」の部分を規制しろということ。銀行が破綻すると関係ない市民に被害が及ぶ。かといって救済すると税金を使わざるを得ないし、またモラルハザードも生んでしまう。


でもやっぱり銀行はいずれ巨大化するだろう、と。そのときに今回の教訓を活かせるようにしないとね、というお話。



ブラッド君三度:銀行救済の新しいやり方についてそろそろ言っとくか


ここでは19世紀のデフレ時代に起きた鉄道バブル崩壊のケースと、その後できたいわゆる「Chapter 11」を回顧。この「破綻はしたけどつぶさない」という枠組みをどうやれば銀行に適用できるかな、というお話。


ブラッド君の提案は「破綻した銀行はFDICが管理すればいいんじゃね?」ということらしい。

「われわれは大規模金融機関が「破綻銀行」になったときのための新たな条項を定める必要がある。Jeremy BulowとPaul Klemperer嫁」


And so we need a new chapter of the bankruptcy code to deal with large financial institutions that become “bad banks.” I’d advise everyone to read Jeremy Bulow and Paul Klemperer, who have thought longer and harder about this than I have.

個人的感想


なんとなく後半はガイトナー・プランの話じゃなくなってるような・・・


でも参加している経済学者全員(DeLongも)が「銀行国有化」を支持しているとは正直想像してなかったなあ。翻ってバブル崩壊時の日本でこのような論壇はあったんだろうか?僕はバブル崩壊時はまだ社会に出てなかったので知らないんだよな(そういや「複合不況」は読んだ記憶がある)。


さて、これまだ続くのかな?

*1:原文は"resolution mechanism for large banks”直訳なら「大規模銀行解決メカニズム」とかになるが、官僚的ニュアンスっぽく「高度化」とかって言ってみるテスト

*2:原文では"information-sharing effects"となっている。