経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)


時代時代で変遷する様々な経営戦略理論を、「ケイパビリティ」と「ポジショニング」の2つの考え方の間を揺れる振り子として構造化した著者の慧眼が素晴らしい。


が、以前取り上げた「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」でも述べられていたが、この本で扱う経営戦略の大半は、統計的な検討を経たものではなく、「ケイパビリティ派」に含まれる「理論」の多くは作為的に抽出された「ケーススタディ」に基づく帰納的な「なんちゃって理論」であり、科学的な「理論」と呼べるような代物ではない。


一方で、ミクロ経済学の数学的モデルから演繹的に導かれた「経営理論」も存在するが(ポジショニング派の一部など)、現在の行動経済学(ようは人間の認知バイアスを前提とした行動分析)の知見が存在しない時代の産物であるため、こちらもあまり意味があるとも思えない。


では読む意味が無いかというとそれは違う。過去にどのような議論があったのかを知ることは、現在がなぜこうなっているのかを理解する唯一の方法だし、この先の未来を考える上での唯一の材料だ。今までなかった本。読むべし。