異端児たちの決断 日立製作所 川村改革の2000日


2009年4月に日立製作所の社長に就任した川村隆氏の日立の改革を追ったドキュメント。実は日立って結構な内部改革をやってたのねえ、しらんかったよ。


自分の中の日立のイメージって「拝承(笑)」「HDD事業(笑)」「PDP(笑)」「日立アプライアンス(笑)」「コングロマリットプレミアム(笑)by古川社長(2006年当時)」「Inspire the Next(笑)」「社会イノベーション(笑)」というくらいのもので、2008年くらいから日立に関する認識を更新してなかったっぽい。反省しました。


電機業界(ここでは家電と重電をあえて分けずに)界隈では最近「不振に陥った大企業の腐った側面」を描く本がいっぱい出てきている。例えば以下の様な本。

ドキュメント パナソニック人事抗争史
立ち読みだけした。この本では中村改革が結構やり玉にあがってた。松下の苦境の遠因を遡ると「松下正治会長が人事に容喙し、その結果、森下社長から始まる『当時のトップのイエスマン』をエネンと社長の座につけてきたこと」というのが同書の意見と言えそうだ。なので「人事抗争史」なるタイトルがつくのであろう。ただし立ち読みしかしてない。
パナソニック・ショック
未読。著者の立石氏は電機業界の取材が長い方なので、なんとなく内容は想像がつく。
さよなら!僕らのソニー (文春新書)
未読。同じく立石氏の著書。ソニーと松下(パナソニックではなく)は、ある時期までコインの裏表的な側面があったと思うんだが、いつのまにか似たもの同士っぽくなっちゃったなあ、とか。ちなみに立石氏は2003年にこんな本も出してる。「ソニーと松下〈上〉企業カルチャーの創造 (講談社プラスアルファ文庫)
シャープ「液晶敗戦」の教訓
「おっと、PDPの悪口はそこまでだ」。「世界の亀山ブランド」とか「選択と集中」とか持ち上げてた人たちはどこにいったのか(たぶん今は石投げてるんだろうけど)。


このへんの本に比べると、この川村改革の本は前向き。ただやったことは他の電機屋さんとあまり変わってないという気もするんだよね。曰く「上場子会社の整理」、曰く「不採算事業からの撤退・売却」、曰く「人件費圧縮によるコスト構造見直し」、曰く「M&Aを含む海外事業のテコ入れ」、曰く「社外取締役の導入、取締役会のダイバーシティ向上」などなどなど。が、日立ではこれらの打ち手が効果を発揮し、財務的にも事業的にも再成長の兆しがはっきりと出ているようである。一方のソニーパナソニック、シャープといった家電業界はもうちょっとトンネルが長そうだ。この差はなにに由来するのか、よくわからん。まあウォン高が続けばサムスンも似たような話になるだろうけどさ。


本書の中で最も印象に残ったのは以下の部分。

2003年に本社の財務一部長に就任するまで、三好は不振の半導体部門やパソコン部門の財務責任者を歴任した。当時は毎月のように事業部長と本社に呼びつけられ、分厚い報告書と事業計画書を求められた。かといって本社サイドにスペシャリストがいて、事業部の事情がわかるわけでもない。「本社にどう弁明するか」「本社をどう納得させるか」。次第に内向きになり、事業への責任の意識が希薄になる。これが悪弊であることは経験から分かっていた。(同書、p.123)


そうなんだよねえ(血涙)。「マネジメント」と称して本社様がやってることって、単なる邪魔でしかないんだよね。しかもそれって事業部に嘘をつくインセンティブを与えてしまうし、さらに悪いことに、事業部が自ら自分たちの「嘘」を信じるようになっちゃうんだよねえ。嘘を信じたいがために高価なコンサルを雇ったりとかさあ (∀`*ゞ)テヘッ


本書を読む限りでは日立の行った川村改革は改革の定跡だなと思う。でも日立、知らないうちにほんとにいろんなことが変わっててびっくりした。ニュースは追いかけてるつもりだったけど、でかい会社の内部ってわからないものですわ。面白かったです。是非首記の本、お目通しいただきたく。


−以上−


追記:こういうの昔書いてた。
日立社長交代 - I 慣性という名の惰性 I