ブログファイナンス入門(上巻)の紹介(1)


元ネタ⇒ Principals of Corporate Finance 6th Edition - Brealey and Myers


MBAコーポレートファイナンスの世界ではもっともメジャーな教科書といってもいい「コーポレート ファイナンス(第8版) 上」の著者である、ブック&マーカーズ(以下B&Mと略)の新刊。昨今急速に普及してきた『ブログ』に関する包括的なファイナンス理論をまとめた待望の本だ。


本書の構成は以下のようになっている。このエントリでは、上巻の第1部、第2部について概観する*1。僕が多少気になった点などもその都度メモ的に書いていく。


上巻:目次


第1部 ブログの価値
第2部 リスク
第3部 資本支出予算における実際的な問題
第4部 資金調達の決定と市場の効率性
第5部 利益還元政策と資本構成



第1部 ブログの価値


第1章 ブログファイナンスとは何か
第2章 ブログの意味とブログの機会費用
第3章 ブログの価値をどう測るか
第4章 エントリの価値とは?
第5章 なぜNPVを考えることがよりよいエントリにつながるか
第6章 NPVルールに基づく意思決定

第1章 ブログファイナンスとは何か


まずは導入というか基礎の基礎の部分。ここでは会計的視点からブログの貸借対照表(バランスシート:以下「B/S」)と損益計算書(ページビューPage View Statment:以下「P/V」)を定義し、その後そのブログの真の価値とは何かを論じていく部分。


まずはB/Sから。ブログのB/Sは、左側にエントリ(会計上でいう資産 Assetに相当)を置き、右にネタ(負債 Debt)、メタ(資本 Equity)が対置される。PVを稼ぐための装置として働くのが「エントリ(A)」であり、そのエントリは、自分でひねり出した自己資本ともいえる「メタ(E)」と、他人のアイデアに安易に乗っかるという意味でレバレッジを効かせることが出来る「ネタ(D)」の総和と常に等しくなる。


以前までは主流だった投稿時点での評価(バカ評価)ではそのブログの実際の状況がわかりにくいとの批判がある。なので近年でははてなを中心に会計上の時価の概念に相当する「被ブクマ評価」を導入すべきとの声もある。しかし、被ブクマ評価では市場にさらされていない「プライベートモード」をいかに正確に評価すべきかといった問題や、さらにプライベートモードを悪用した「セル熊」を用いた粉飾などの弊害も指摘されている。「バカ評価」と「被ブクマ評価」のどちらがより正確にそのブログのバランスシートを表現しているかという意味では、僕は「被ブクマ評価」のほうが"more better"であるという立場をとる。

第2章 ブログの意味とブログの機会費用


ようは「お前こんな糞エントリ書いてないでリアルをもっと充実させたらどうよ?」という話。

第3章 ブログの価値をどう測るか


ついで「ブログ価値」の話になる。これは企業で言えば「企業価値(≒時価総額)」の概念に相当するものだと言える。このブログ価値については様々なアプローチがありうる。本書では代表的なものとして以下のような価値評価を列挙している。

実現アフィ総額アプローチ
実際に得たアフィの収入をそのままブログ価値と捉えるアプローチ。実際の金額の裏づけがあるため、ある意味最も確定的な評価アプローチといえる。このメリットから、税務当局が最も重視するアプローチでもある。ただし日本の場合、アフィの総額自体が小さいこと、またほとんどのブログが赤字であることなどからより外形的な価値評価のほうが適当なのではないかという議論もある。
PVアプローチ
ブログの基本であるPVをベースとした評価。1PVあたりの価値を割り出し、その単位PV価値をPVの総量に掛けたものとして算出される。もっとも単純な価値評価アプローチだが、アフィをやっていないブログではPVあたりの価値の算出が難しいこと、また日本ではコンバージョン率が異様に低いためPV数とアフィの間の相関にばらつきがおきやすいことなどからあまり普及していない。
テクノラティアプローチ
もっとも機械的かつ簡単な方法。「Business Opportunities Weblog | How Much Is My Blog Worth」にブログのアドレスを記入するだけで評価が可能。メリットとしては同一評価基準で他のブログとの価値比較が可能なこと。しかし、算出根拠がブラックボックスになっているため、アメリカ以外の国でこのアプローチを利用することは注意が必要。また、このアプローチによるブログ価値はありえないくらい過大に算出されているのではないかという批判は後を絶たない。
第4章 エントリの価値とは?


ここではブログを構成する各エントリが持つ価値についての議論。そもそもブログとはエントリの集合体とも言えるわけだが、各エントリが全く同じ価値をもつわけではない。単純にエントリの総和としてブログの価値が定義されるわけではない。ここではブログの構成要素であるエントリをブログファイナンスではどのように取り扱うのかを説明する。


割引率とはなにか?


誰も先のことは分からない。(実名ブログじゃなければ)誰が書いているかもわからない。そのソースはなんだ?というのもブログの不確実性を高める要素である。この不確実性をどのように取り扱うのか。それが割引率だ。


よく使われる割引率を列挙しておく。実際はケースバイケースで必ずしもこの通りということはないが、おおよその傾向をつかむことは可能だと思う。

有名実名ブログ
2%。たまにはずす
有名匿名ブログ
5%。ソースさえあれば結構安心
マイナー実名ブログ
10%。ま、好き好き
マイナー匿名ブログ
20%。特定個人読むより増田でいいんじゃね?
ホッテントリ
25%。[あとで読む]ばっかりじゃん
アカピー
30%。以前はもっと低かったが最近はジャンク扱い
ZAKZAK
50%。ようは話半分。
報知
80%。つかここのスクープってありえねえよ
TBS
90%。

DPVとNPV


そしてこの割引率の概念がわかったら、ファイナンスの本丸であるDPV(Discount Page View)とNPV(Net Present Vogue)に続く。


DPV(Discount Page View)とは、読んで字のごとく「ページビューは割り引いて考えろ」ということだ。Googleから「女子高生」とかいった検索ワードで飛んでくるPVに価値はないといえばわかりやすいかも*2。PVなんて競ってなんになんだよ、ケッという態度を数式化したものと思って欲しい。DPVは以下の数式で定義される。


DPV=\sum_{t=1}^T p_ir_i

ただしp_iはi番目のリンク元からのページビュー、r_iはi番目のソースの割引率


つまり、DPVとはそれぞれのPVをそのリンク元の割引率に基づいて割り引いたものの総計となる。これによってそのブログがどの程度ネット上で意味のあるコンテンツとして見られているかが分かる。


NPV(Net Presense Vogue)とは、日本語的な感じで言うと「ネットでの立ち位置と存在感」とでもなるか。ぶっちゃけていえば「ネット上の虚像が持つ影響力」ということ。これは次の数式で表される。


NPV=P_0 + \sum_{t=1}^T p_ir_i

ただし、P_0は初期時点での累積PV。その他はDPVと同様。


これを見てもらえれば分かるが、一般的にP_0は非負*3なので、NPVは続ければ続けるほどでかくなるし、P_0が大きいやつには勝てないってことだ。ブログ上でのDisはこのNPVが自分より低い相手に対してでないと絶対にやっちゃいけない。NPVが自分より大きい相手をDisるのはブログファイナンス上ありえないリソース投資だ。


そしてNPVをゼロにするような割引率rを「IRR:Internet Reputation Risk」という。リアルではまともな学者と思われていた人がネットではいきなり厨房化するとかってのが典型例。DPVは高いのにNPVが低めの人っているよなあとか。そして次の章ではNPVに留意することがエントリの質を維持するために必要であることが示される。

第5章 なぜNPVを考えることがよりよいエントリにつながるか


結局、いくらPVを稼いだところでもともとのリンク先の質(割引率)を考えないことにはブログの価値は上がらない。ホッテントリになったところで「これはひどい」「あとで読む」「ネタ」といったタグが主流を占めるようなエントリをいくら掲載したところでNPVは増えない。バトルが勃発したらいきなりRSS登録が増えたが収束したら潮が引くようにRSS登録が激減したなんていうのは典型的な例といえる。


逆に、こういったタグがつけられないようなエントリ、無駄なバトルに巻き込まれないようなエントリといった割引率の低いPVを稼いでいくようなエントリのほうがNPVは着実に高まっていく。

第6章 NPVルールに基づく意思決定


というわけで、NPVをベースにエントリを書きましょうという話。P_0にあぐらをかくことでもなく、へんにDisらず、ネタはネタと分かるようにといった話。ケーススタディも多い。

第2部 リスク


第7章 はじめに:リスクとリターン、そしてブログの機会費用
第8章 リスクとリターン
第9章 ブログの方針とリスク

第7章 はじめに:リスクとリターン、そしてブログの機会費用


ファイナンスの基本概念である「リスク」を多方面から扱った、ある意味最も重要なパートである。ブログファイナンスの「リスク」をあらわす至言はたくさんある。思いつくままに並べても以下のようなものがある*4

  • 『手の中の1アンテナ登録は、藪の中の2RSS登録に優る(ただしいきなりきて本を買ってくれる一見さんにはかなわない)』
  • 『今日の一行更新は、明日の更新予告より価値がある』
  • 『同じネタは一つのエントリに入れるな』
  • 『荒しはスルー』


結局、ブログファイナンスというのはこの概念を数値化していく作業だと言っても過言ではないだろう。そしてこのリスクを数値化することによってはじめてリターンとの比較も可能となるし、さらにブログ機会費用の可視化にもつながるのである。

第8章 リスクとリターン


リスクのもう一方にはリターンがある。広い意味でのリターンにはあらゆるものが考えられるが、ここではPVもしくはお金として数値化可能なリターンを考える。なので、いくら増田で人気になっていい気分になってもここではリターンとしては考えない。

第9章 ブログの方針とリスク


リスクとは多ければ悪いわけでも、少なければいいわけでもない。そのブログが目指すべきリターンというものがあって、それを達成するためにはどの程度のリスクを負うのが適切なのかという点が明確でなければならない。


いつidバレが起きるかわからない増田にあんなことまで書いていいのかといった問題や、実名なんだから匿名に切れまくるのはどうなのよとか、ネタブログにまじめに質問してくる奴はいったいなんなんだとか。


またNPVの観点から「まとめサイト」へ転換するといった割引率を低めたといえるケーススタディなども紹介されている。




!!今回はここで終了。これ以降読みたい奴なんているのか?!!



第3部 エントリ投稿における実際的な問題


このパートでは実際にどのようなエントリ投稿を行うかということに関する実際的な問題を扱う。


第10章 エントリはブラックボックスではない
第11章 NPVはなにによってもたらされるのか
第12章 NPV最大化をいかに達成するか


第4部 ネタ調達の決定と市場の効率性


第13章 ブログファイナンスと市場の効率性の6つの教訓
第14章 ブログファイナンスの概要
第15章 エントリネタをいかにして集めるか

第5部 利益還元政策と資本構成


第16章 配当に関する議論
第17章 高いネタ比率は問題か?
第18章 どの程度までネタを織り交ぜるべきか
第19章 ネタとメタの相互関係


【参考】下巻:目次*5


第6部 オプション

第20章 オプションの設定と価格
第21章 リアルオプション
第22章 トラバとコメント


第7部 ネタエントリ

第23章 ネタの価値
第24章 ネタの多くの種類
第25章 テンプレ・コピペ


第8部 リスクマネジメント

第26章 リスクをマネージする
第27章 コミュニティ間のリスクをマネージする


第9部 エントリ計画と短期のブログ運営

第28章 アクセス解析と計画
第29章 短期のブログ運営
第30章 ネタ元のマネージメント
第31章 メタのマネージメント
第32章 短文コピペと長文テンプレ


第10部 買収、ブログコントロールとブログガバナンス

第33章 買収
第34章 コントロールとガバナンス、ブログのアーキテクチャ


第11部 結論

*1:第3部以降も書くかは未定。つかマジで大変だ。思いつかなきゃよかった

*2:「将棋ソフト」でここに飛んでくる人を見るとちょっと不憫になる

*3:閉鎖されたり訴えられたりしたら負になりうる

*4:ファイナンス講座案内参照

*5:力尽きた・・・