新人の面倒を見る羽目になった人向けの本リスト:中編
追記:いただいたコメント等について(2/2) - I 慣性という名の惰性 I
前編では「新人に教える」というのはどういうことよ?ということについて考えた。次は会社の組織ってものについて教えるときはどうするべきかを考える。
まずは健全なコミュニケーションを取るために読む本
会社の組織とはっていっても、これには『正解』というものがないと思う。なので、一方的に「組織に隷属したら負けかなと思ってる」とか居酒屋なんかで言ったりしたら、普通に引かれるだろう。また、怪しげなビジネス雑誌の中途半端な記事とかマッチョなブログに煽られてバカなことを口走る新人というのも非常にウザい存在だ。
そこで普通に「俺はこう思うけど」「こういうことがあるけどどう思う」「こういう記事ってごく一部の人向けじゃね?」とかっていう形の議論というか会話形式で考えていくしかない。そして一般的には先輩も新人もどっちもビジネスとか会社ってものを理解するまではいってないし、それが当たり前。じゃあそんな狭い範囲の経験とか知識で語っててもしょうがないよね、という話になるんだが、それでも話したくなるのが人の常。
なので、お互い健全にデータを持ち寄って、中立的に解釈して、そこから妥当な範囲で得られる結論を導き出して、それについて考えるという作法を身に付けるほうが得策だろう。
というわけでこれ。
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 新書
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この本のダメな議論を見抜く5つのチェックポイントをあげとく。
- 定義の誤解・失敗はないか
- 「現状態の全原因」=「自己責任」?
- 無内容または反証不可能な言説
- それは「自己責任」じゃなくて「自己権利」だ!
- 難解な理論の不安定な結論
- 「俺はこうやって這い上がってきた!」
- 単純なデータ観察で否定されないか
- マッチョ:ウィンプ=1:10000over
- 比喩と例話に支えられた主張
- 「バイキングで給仕待ってどうする!」
「社会人」になって浮かれてしまっている「新人」がファッショナブルなネタに踊らされないようにするために、そしてそれにつられて自分も踊りださないためのいい冷却材とこの本はなってくれる。
新人のKYな質問に答えるために読む本
ちょっと仕事を覚えてくれて部内とか社内とかのいろんな人たちとコミュニケーションをやり始めると「新人」の皆様方は必ずこの質問をかましてくれる。
「なんでこんな正しいこと/いいやり方/すばらしいアイデアが通んないんですか?」
こう聞かれたら全力で「俺に聞くな」となってしまうが、「じゃあ社長にメールしてみます!」と笑顔で返されたらマジ死ねる。なので一応は答えないといけない。でも結局答えられるのは「お前は知らないだろうけど、実はあの部長とあの部長は仲が悪くてね・・・」レベルのゴシップ情報でしかない(しかもそのゴシップも別の先輩から聞かされただけだ)。
その場は「へえ、そうなんですか」で収まるが、いずれこのKY質問はその頻度・凶暴度を上げて襲っいかかってくることになる。そのたびにゴシップ情報で返してたら、最後にとどめのKY質問がくる。
「なんで先輩はそこまでひどいと知っててこの会社で働いてるんですか?」
・・・ぐはっ
やめて!もう「先輩」のライフはとっくにゼロよ!
これは避けたい。全力で避けたい。ではどうするか。その背景メカニズムを教えてやればいいのだ。現象をに対してそれを逐一解説するのではなく、その背景にある理論・方程式を教えればいい。あとは勝手にむこうが分析してくれる。そのための本として以下の3冊をあげとく。
無責任の構造―モラル・ハザードへの知的戦略 (PHP新書 (141))
- 作者: 岡本浩一
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2001/01
- メディア: 新書
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- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
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- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1997/10
- メディア: 単行本
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これ以外にも良書はいっぱいあるのでとりあえずどれかを読んどけばいい。そしてこの手のKY質問をされたら黙ってこの本を差し出そう。そこから先はシラネ。「俺だってやだよ、こんな会社!」と逆切れする前に読んどこう。
現場と管理部門の相克を理解させるための本
日本の組織の行動原理はまあ不承不承でも納得した新人が次に目をつけるのが「現場」と「管理部門」の仲の悪さだ。これはどっちに所属したって絶対に起きる。経理に配属されれば「営業の人たちはなんで経費ごまかそうとするんですか?」となるし、営業に配属されれば「なんでこんな意味のない書類を総務部は要求してくるんですか?」となる。
これも上と同様、いちいちその規則ができた経緯とか、部署ごとの行動特性とかを説明してたらきりがない。かといって「ふぅ・・・経理とはそういうもんだよ。なに熱くなってんの?」と賢者になったって納得なんてしてくれない。解決方法は上と同様。そうなるメカニズムを知っとく以外ない。そのための本として、2冊あげとく。
- 作者: ジェインジェイコブズ,Jane Jacobs,香西泰
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 文庫
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- 作者: 沼上幹
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/03/01
- メディア: 新書
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ジェイコブスおばさん(故人)の本は、市場(商人=現場)と統治(官僚=管理部門)が双方異なった倫理(ようはなにを良しとするかの行動原理ね)をもって動いており、両者が交流するとどうやっても問題が起きてしまうということを説明した本。うん、どうやったって両者が完全に理解しあうことはないんだよ。ただ、市場に統治の論理を持ち込んだり、その逆をやったりするととたんにおかしくなるってことは注意しとくべき。両者の仲が悪いのは仕方ないんだけど、営業が管理部門的インセンティブで動き出したり、管理部門が売上とか成果を追求しだすとまずい。
そういった「倫理の取り違え」が起きるとどうなるか。それをより具体的に説明したのが実は「新人のKYな質問に答えるために読む本」で挙げた3冊だと言うこともできる。
ここを押さえた上で『組織戦略の考え方』という本を読んでみよう。自社の問題点とだぶる構造が見えてくるだろう。この本には「絶対にうまくいく組織思いついた!」というアイデアも書いてあるので「おまえ天才じゃね?」「なんだただの天才か」と言ってあげよう。
で、まあ結局は経済学の話を理解するのが一番だってことになっちゃうんだけどね。「プリンシパル=エージェント理論」とか「契約とインセンティブ」とかでググれば一杯そのへんの文献とかリソースは見つかる。このへんの話をおっかけていくと『組織の経済学』(通称「タウンページ」)にたどりつくことになる。が、これは絶対にお勧めしない。買うなよ!絶対買うなよ!
で、結局いい組織ってなんでしょうね?となったときに読んどく本
暗い話ばっかりやってても腐っちゃうよね、そうだよね、ということで「こういう会社になってくれるといいですよねえ」と二人で遠くを見つめるための本を挙げとく。
- 作者: ルイス・V・ガースナー,山岡洋一,高遠裕子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/12/02
- メディア: 単行本
- 購入: 22人 クリック: 313回
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- 作者: ジャック・ウェルチ,ジョン・A・バーン,宮本喜一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2005/04/29
- メディア: 文庫
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- 作者: ジャック・ウェルチ,ジョン・A・バーン,宮本喜一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2005/04/29
- メディア: 文庫
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というわけで怒涛の後編へ続く。後編ではビジネスの進め方について教えるための本を考える。
後編へ続く
⇒新人の面倒を見る羽目になった人向けの本リスト:後編